11 学園生活は続き、さらなる無双へ
「ふうん、鼻の下伸ばしちゃって」
「よかったですね、モテモテで」
と、マチルダとキサラがやって来た。
あ、あれ? 二人ともまた怒ってない?
「昨日はレスティアと話してたときに怒ってたし……」
「別に怒ってないけど~? ヤキモチなんて焼いてないしっ」
「いや、絶対怒ってるだろ……」
「私も怒ってませんよ、うふふふ……!」
「目が笑ってない……」
俺は二人から感じる無形の圧に、完全に気圧されていた。
「あらあら、こういうとき『正妻』ならドンと構えるものよ」
さらにレスティアがやって来た。
……なんか、この子まで来るとややこしくなりそうなんだが。
「あたしのレイヴンくんがモテモテで誇らしいわ」
「だ、誰があんたのレイヴンよ!」
「レイヴン様はあなたのものではありません!」
マチルダとキサラが同時に叫んだ。
「あ、ははは、俺……自分の席に行くから。じゃあな……」
女同士のバトルにこれ以上巻きこまれまいと、俺は自席に移動した。
「おはよう、マルス」
一つ前の席に座っているマルスに挨拶をする。
「おはよう、レイヴンくん」
マルスは爽やかに挨拶を返してくれた。
「大変みたいだね」
「まったくだ……」
「まあ、色々と目立ってるからね、君は」
マルスが微苦笑した。
「今までこんなふうに騒がれたことがないから、どうも苦手だ、この空気……」
俺はため息をついた。
「君と話しているときはホッとするよ」
「僕でよければ、いつでも話し相手になるよ」
マルスがにっこり笑った。
なんだか癒やされる。
そのとき――ふと思った。
俺とマルスの関係性ってなんなんだろう。
俺はただ、自分が生き残るためにマルスと仲良くしているだけだ――。
そう言い聞かせつつも、純粋にこいつと一緒にいると楽しさを感じている自分を発見する。
考えてみれば、俺は学生時代にこういう友人がいなかったな。
そもそも前世において、ちゃんとした友だちが一人もいなかったんだ。
だから、楽しい。
もちろんキサラやマチルダと一緒にいるのも楽しいけど、それとは違う同性の友人はまた違う楽しさがあるんだ。
叶うなら、破滅の運命とかそういうことを気にせず、ただマルスと友人として一緒に過ごしていきたい。
そう、思ったんだ。
昼休み、俺はマチルダやキサラと一緒に昼食をとっていた。
「学内トーナメント?」
「そ。春、秋と行われる全学年対抗のビッグイベントよ!」
マチルダの言葉に熱がこもる。
「ここで好成績を残せば、一気に学内ランキング急上昇よ!」
「気合入ってるなぁ」
「当然でしょ。あたしは学園の女帝と呼ばれてみせる!」
マチルダの目が燃えていた。
「当面のライバルはあんたね。もちろんキサラも」
俺たちを見据える。
「ライバルか……上級生にも強い人たちはいるんだろ?」
「もちろん!」
マチルダが元気よくうなずいた。
「あ、聞きたい? 聞きたいよね? 有力生徒たちの情報? ふふん、いいでしょう。このマチルダさんが二人にだけ特別に教えてあげる!」
「なんか……ちょっとキャラ変わってきてないか、マチルダ……?」
俺はジト目で彼女を見つめた。
まあ、ともあれ――。
ゲームシナリオ通り、次は『学内トーナメント編』に移りそうだ。
ゲーム内の『学内トーナメント』イベントの概要はこうだ。
主人公マルスが数々の強敵と当たりながらもこれに勝利し、その過程でヒロインたちとの仲を深めていく。
一方で傲岸不遜な一年生レイヴン(ゲーム内の俺だ)は、圧倒的な強さで勝ち進んでいくが、手加減を一切しないスタイルのため、多くの生徒が重傷を負う。
それを意に介さず決勝進出するレイヴン。
主人公マルスの友人やヒロインも負傷し、怒りに燃える彼は決勝でレイヴンと死闘を繰り広げ、その戦いの中で秘められた力に覚醒する。
そして、ついにレイヴンを撃破し、学内最強の座をつかみ取る――。
敗れたレイヴンは闇堕ちし、魔王軍復活を画策したり、ルート分岐で王国での謀反を企てたり……と、何種類かの悪役ムーブをするんだけど、最終的には死ぬ。
「やっぱり、マルスが覚醒するとまずいよなぁ……」
俺は思案する。
彼には弱いままでいてもらわなければ、いずれ俺が殺される可能性が高くなる。
ただ、いずれ『魔王大戦』が起こるであろうことを考えると、そのときに人類側の切り札となるマルスが弱いままでは、魔王軍に人類が滅ぼされかねない。
もちろん人類側の強者はマルスだけじゃないから、彼が弱いまま成長しないルートをたどったとしても、他の強者たちを俺が後方から強力にバックアップすれば、魔王軍に対抗することは可能だろう。
とはいえ、それも絶対じゃない。
マルスが覚醒しないことによって人類敗北&全滅――このルートをたどると、俺自身の破滅エンドを免れても、結局は同じことだ。
「うーん……悩ましいな」
あちらを立てれば、こちらを立たず。
「やっぱり魔王の脅威を排除することを第一に考えると、マルスに覚醒してもらうか……ううん」
本当に悩ましい。
〇『魔族のモブ兵士に転生した俺が、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために修行した結果、限界の壁を超えて規格外の最強魔族になっていた。』
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