ep.22 俺は、間違っていたのか……?

前回のあらすじ


佐竹の不誠実な態度に苦しむAは、彼のやる気を引き出そうと何度も指導するが、佐竹の成長は見られなかった。焦りを感じたAは、高山のように厳しく接し始めるが、佐竹は居眠りをするなど全く改善せず、ついにはスパルタ的な指導に踏み切る。それでも佐竹の進歩は遅く、Aの苛立ちは募るばかりだった。やがて、佐竹は無断で失踪し、Aは自分の指導方法に疑問を抱く。結局、佐竹を追い詰めて辞職させてしまったことを深く後悔する。

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Aはデスクに座り、資料をめくりながら目の前に広がる数字の羅列に焦点を当てようと努力していた。しかし、頭がぼんやりとしている。前日までの徹夜が効いているのか、思考が霞んで集中力が保てない。そんな時、突然肩を叩かれ、Aははっと目を覚ました。




「Aさん、寝てましたよ。」




佐竹が心配そうに声をかけてきた。どうやらAは業務中に「寝てしまっていた」という状態らしい。




「すまない、気づかなかった。」




Aは慌てて姿勢を正し、日時を確認する。ちょうど、自分がスパルタ化する直前くらいのようだ。




「もういい。佐竹、続きを頑張ろう。」




自分を励ますように言葉を吐き出し、Aは再び業務に向き直る。今日は、佐竹の教育に集中する日だ。しかし、佐竹のやる気のなさそうな態度に、Aは心の中でため息をつく。何度指導しても、モチベーションが上がらない佐竹。彼の鈍い反応に苛立ちを覚えながらも、Aはなんとか自分を抑えた。




「もう少しやる気を出してくれ。頼むからさ〜」




そう言いかけて、Aは言葉を飲み込む。佐竹に当たり散らしたところで、何も変わらないとわかっている。しかし、フラストレーションが溜まっていく自分をどうにもできないでいた。




Aは一旦手を止め、深呼吸をする。感情に流されるわけにはいかない。佐竹にもっと何か違うアプローチが必要なのだろうか?頭を巡らせながら、Aは不意に立ち上がり、佐竹に声をかけた。




「ちょっと、外に出ようか。」




佐竹は少し驚いた表情を浮かべたが、何も言わずに立ち上がり、Aに従った。二人はオフィスビルの屋上へ向かう。日差しは強かったが、心地よい風が吹いていた。Aは手すりに寄りかかりながら、佐竹に向かって話し始めた。




「佐竹、お前の気持ち、なんとなくわかるんだ。俺も正直、今の仕事が辛い。結果を出さなきゃいけないってプレッシャーがあるけど、それが思うようにいかない。」




Aの言葉に、佐竹はしばらく黙っていた。しかし、やがてゆっくりと口を開いた。




「Aさんも辛いんですね。俺、ずっと自分だけがダメだと思ってました。でも、Aさんも頑張ってるんですね。」




佐竹の言葉に、Aは軽く頷いた。自分だけが苦しんでいるわけではない。その事実が、佐竹に少しの安堵を与えたようだった。




「だからさ、これからはもっと一緒にやろう。俺もサポートするから、お前も少しずつ頑張ってくれよ。」




Aの言葉は柔らかかった。佐竹も少しほっとした様子で頷く。二人はその場でしばらく話し続けた。Aは、自分がこれまで感情を押し殺し、ただ結果を求めて佐竹を追い詰めていたことに気づいた。そして、これからはもっと協力してやっていくべきだと改めて感じた。




それからというもの、Aと佐竹はペアで仕事をするようになった。Aが佐竹の苦手な部分をフォローし、逆に佐竹が得意とする部分を任せる形で役割分担を行った。佐竹のペースに合わせて教えることで、少しずつではあるが彼の成長が見られるようになった。営業トークもスムーズになり、顧客対応もうまくこなすようになってきた。




Aはその変化を見て、心の底から嬉しかった。これなら、売上2倍の目標も達成できるかもしれない。佐竹も、自信を持ち始めているようだった。




しかし、その喜びは長くは続かなかった。ある日、高山が現れた。




高山は二人のやり取りをしばらく黙って見ていたが、突然怒鳴り声を上げた。




「佐竹、いくらなんでも覚えが遅いんだよ!」




そう言うと、高山は何の前触れもなく、佐竹の横っ面を殴りつけた。その音は、静かなオフィスに響き渡った。




Aは思わず立ちすくんだ。佐竹は痛みに顔を歪め、何も言わずにその場に立ち尽くしていた。高山は怒りをぶちまけると、そのまま何事もなかったかのようにオフィスを去っていった。




翌日、佐竹は姿を消した。出社もせず、連絡も取れない。Aは事態を把握しようと何度も電話をかけたが、繋がらなかった。




Aは呆然と、空を見上げた。




「俺は、間違っていたのか……?」

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