第30話 虚無の砦

 玲二たちが「死者の谷」で古代の魔晶石を手に入れた後、世界にはますます不穏な気配が広がっていた。空は日増しに暗くなり、風には魔物たちの唸り声が混じり始めていた。各地では異変が起き、魔王の力が徐々に影響を広げていることは明白だった。


「感じる……この嫌な感じ。魔王が目覚めるのも時間の問題ね」


 セリーヌは険しい顔をして、空を見上げながら呟いた。空には濁った赤黒い雲が広がり、時折、不気味な雷鳴が響いていた。


「魔晶石は手に入れたが、これだけではまだ不十分だ。魔王が完全に目覚める前に、すべての準備を整えないと……」


 玲二もまた、深刻な表情で周囲を見渡した。彼らはこの異常事態に対処するため、次なる準備に急ぐ必要があった。魔王を封じるためには、魔晶石の力を最大限に引き出す儀式を行う必要がある。それができる場所は、古代の記録によれば「虚無の砦」という場所だった。


「虚無の砦は、かつて魔王が封印された場所。そこにたどり着けば、魔王を再び封じるための儀式ができるはずよ」


 セリーヌの言葉に、玲二とエリザは頷き、すぐにその場所へ向かう準備を整えた。


 虚無の砦は、世界の北端に位置する荒涼とした場所にあった。その地は何世代にもわたって封印され、人々の記憶からも忘れ去られていた場所であり、訪れる者はいなかった。だが、玲二たちが到着する頃には、すでにその場所に封じられていた魔力が外に漏れ出していた。


「空気が……重い。まるでこの場所が、生き物そのものを拒んでいるみたいだ」


 エリザが剣を握りしめ、周囲を警戒しながら呟いた。砦の周りは荒れ果てており、草木は枯れ、すべてが死の気配に包まれていた。大地には巨大な亀裂が走り、時折、不気味な音を立てていた。


「これは、魔王の力が解放されかけている証拠ね……急がないと」


 セリーヌは焦燥感を滲ませた声で言った。砦の中心には、かつて魔王が封印された祭壇があり、そこで儀式を行えば再び封印できるはずだった。しかし、封印が完全に破られる前に、その儀式を行う必要があった。


「時間との勝負だ。急ぐぞ!」


 玲二は仲間たちに呼びかけ、砦の中へと足を踏み入れた。彼らは広大な砦の中を進み、魔王を封じるための準備を急いだ。

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