第4話 異世界の文化と最初の出会い

 玲二が草原を歩いて数時間が経過した。これまでに見たことのない植物や、空を飛ぶ巨大な鳥の姿など、異世界の風景に驚きながらも、玲二は次第にこの世界に慣れていった。空気は澄んでおり、草原の風はどこか懐かしい匂いがした。


 だが、それと同時に玲二は次第に一つの問題に気づき始めていた。異世界に降り立ってからまだ人間を一人も見ていないのだ。


「ここには、人間はいないのか……?」


 玲二がそう呟いたその時、遠くの方から馬の蹄の音が響いてきた。その音は次第に近づいてくる。玲二は警戒心を持ちつつも、音の方向を振り返った。


 すると、遠くの丘の向こうから一人の騎士が馬に乗ってこちらに向かってくるのが見えた。彼女は甲冑に身を包み、手には剣を持っている。玲二はすぐにその人物が女性であることを見抜いた。流れるような金色の髪が、風にたなびいているのが遠目にもわかったからだ。


「誰だ……?」


 玲二がそう呟いた瞬間、騎士は彼の前で馬を止めた。そして、玲二をじっと見つめながら、甲冑の下から澄んだ声で話しかけてきた。


「そこのあなた、何者だ? この近辺に現れたという魔物の討伐に来たのだが、あなたがその魔物か?」


 玲二は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、騎士に答えた。


「魔物だと? 俺はただここに来ただけだ。魔物とは関係ない」


 騎士はしばらく玲二を観察していたが、やがて剣を下ろし、馬から降り立った。彼女は甲冑に覆われた体を少し伸ばし、玲二に近づいた。


「そうか。すまない、誤解した。私はこの国の騎士団の一員、エリザ・ランサー。魔物討伐の任務に当たっていたのだが、君を見かけたものだからな」


 エリザと名乗るその女性は、玲二をしっかりと見据えていた。鋭い眼差しは彼女の戦士としての経験を物語っている。玲二もまた、その真剣な視線に応じた。


「黒田玲二だ。異世界からここに来たばかりで、まだこの世界のことはよくわからない」


 エリザは眉をひそめ、玲二の言葉に驚いたようだった。


「異世界から来た……? そんな話、聞いたことがないが……」


 彼女は少し考え込んだようだったが、すぐに何かを思いついたかのように顔を上げた。


「なるほど、異世界からの来訪者か。ならば、君もしかして、この世界に来て何らかの力を得たのか?」


 玲二は一瞬迷ったが、すぐに頷いた。最強の力を持つことを隠す理由はないし、今はまだこの世界のことを知るためにも、エリザと協力することが賢明だと感じたからだ。


「そうだ。俺には神から与えられた力がある。どれほどのものか、まだ試していないが……」


 エリザはその言葉を聞くと、玲二に鋭い目を向けた。まるで彼の力を試すかのように、彼女は手を伸ばして剣を構えた。


「そうか。では、その力、私に見せてもらおうか?」


 玲二は驚いたが、エリザの真剣な眼差しを見て、彼女が単なる挑発をしているわけではないことを理解した。彼女は騎士として玲二の実力を確かめようとしているのだ。


「いいだろう。俺もこの力がどれほどのものか試してみたかったところだ」


 そう言うと、玲二はエリザに向かって歩み寄り、彼女の前に立った。


「準備はいいか?」


 エリザは頷き、玲二に向かって剣を一振りした。その剣閃は素早く、まるで光のように玲二の目の前をかすめた。


「ふっ……!」


 玲二は咄嗟に身を翻し、エリザの一撃をかわした。だが、その動きは自分でも驚くほど速かった。現実世界の自分では到底できない反応速度だった。


「やるな……!」


 エリザは感心したように呟いた。そして次の瞬間、玲二は自分の手のひらに力を集中させた。強大なエネルギーが手から迸り、彼の体全体に電流のように流れ込んでいく。


「行くぞ……!」


 玲二は拳を振りかぶり、エリザに向かって一撃を放った。その一撃は空気を切り裂き、周囲に大きな風を巻き起こした。エリザは驚きの表情を見せ、すぐに剣を構えて防御の体勢を取った。


 しかし、玲二の一撃は彼女の防御を上回り、剣ごと弾き飛ばした。エリザは地面に叩きつけられ、驚愕の表情を浮かべながらも、すぐに立ち上がった。


「……すごい力だな。私が今まで見た中でも、ここまでの力を持つ者はいない」


 玲二は拳を握りしめ、胸の中で湧き上がる力を感じていた。彼は確かにこの世界で最強の存在になった。そのことが、自分でも確信できた瞬間だった。

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