裏切られた男、最強の力を手に異世界で逆襲を始める
白金豪
第1話 裏切りと絶望
夜の闇に包まれた倉庫街。その一角にある薄汚れた建物の中、黒田玲二は膝をついていた。全身から力が抜け、指先まで痺れるような感覚が広がっている。周囲にはかつての仲間たちが立っていたが、その目にあるのは冷たい視線と、嘲笑の色だった。
「な、なんで……俺が……」
玲二は絞り出すように声を上げた。しかしその問いかけに応じる者はいない。彼の周囲に立つ男たちは、かつて信頼していた仲間――共に戦い、共に笑い合ったはずの者たちだった。
「お前さ、本当に気づいてなかったのかよ?」
最初に口を開いたのは、リーダー格の男、三田村翔太だった。彼は冷たい笑みを浮かべ、玲二を見下ろしている。その姿が、今では別人のように見えた。
「俺たちがずっと、お前を利用してたってことにさ」
三田村の言葉が、玲二の心に鋭い刃のように突き刺さる。彼は何度も瞬きを繰り返し、自分が今まさに聞いていることが現実であることを信じたくなかった。
「利……用……?」
玲二は呆然とした声で言葉を繰り返した。自分が信じていた仲間たちが、裏で何を考えていたのか、そんなことに一度も気づかなかったという事実が、彼をさらに深い混乱へと突き落とした。
「そうだよ、黒田。お前は俺たちの道具だったんだよ」
今度は別の男、安田が声をあげた。彼の目には、かつて見せたことのない冷酷な光が宿っていた。玲二は信じられなかった。安田はずっと自分を助けてくれていたはずだ。共に困難を乗り越え、数えきれない戦いをくぐり抜けてきたはずの仲間だった。
「なんで……そんなことを……俺たちは仲間だったはずじゃないか……」
玲二の問いかけに、今度は全員が嘲笑を漏らした。彼らの反応が、ますます彼を絶望の淵へと追いやる。
「仲間? 笑わせるなよ。お前みたいなバカが、何を勘違いしてたんだか」
三田村は冷たく言い放つと、玲二の足元を一蹴りした。玲二はその衝撃でさらに体勢を崩し、完全に地面に崩れ落ちた。
「お前が強かったのは認めるさ。だからこそ俺たちはお前を利用した。お前がいれば、俺たちは簡単に敵を片付けられたし、利益も得られた」
「でもな、もうお前はいらないんだよ。俺たちにはもう新しい道がある」
その言葉に、玲二は理解できなかった。自分が強かったからこそ、彼らは自分を利用した――それはまだ理解できる。だが、今この状況がどうしてこうなっているのかが全く理解できない。彼はかつての仲間たちの目を見るが、そこに友情や信頼は微塵も残されていなかった。
「新しい……道?」
玲二は力を振り絞って尋ねたが、その問いかけに返答はなかった。代わりに、再び三田村の嘲笑が響いた。
「お前には関係ないよ、黒田。お前が邪魔なだけだ」
三田村はそう言うと、背後にいた仲間たちに目配せした。次の瞬間、玲二の背後から冷たい感触が走った。鋭い痛みが背中から広がり、彼は激しく息を吐き出した。
「……ぐっ……!」
体が前のめりになり、口から血がこぼれる。玲二は自分が刺されたことを理解するのに、数秒の時間を要した。後ろを振り返ろうとしたが、身体はもう言うことを聞かなかった。
「これで終わりだ。ざまぁみろ、黒田玲二」
三田村の冷たい声が遠く響く。玲二の視界がぼやけ始め、意識が徐々に薄れていく。何が起きたのか、何が間違っていたのか、それすらもう考えることができなかった。ただ、背中から流れ落ちる血の温もりだけが、彼に残された唯一の感覚だった。
「……なんで……俺が……」
最後の力を振り絞って呟いた言葉も、すでに誰にも届いていなかった。彼の目の前で、仲間たちは背を向け、去っていった。彼らの足音が遠のく中で、玲二は薄れていく意識の中でただ、自分が無力に倒れ込んでいく感覚だけを感じていた。
暗闇が全てを覆い尽くす――それが、玲二の最後の瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます