短編小説集【蕾さえなし】

歩く天使

第一遍【火】

大人は良いものなのだろうか。


いや、良いものではない。どこが良いものか。


自由に表現できない、救ってくれる人はいない、ただ命を削って生きるだけではないか。


特に私たちのようにイレギュラーな人間には。


分かってはいた、幼少期から理解していた。


企業に就職して、やりたくもないことでお金を稼いで、休日に稼いだお金でちょっとした贅沢を楽しみとする人間になれる訳がないことを。


それを理解していたから私はずっと、ずっと夢と言う人間が生きる為に必要な燃料を地獄の業火のように燃やしながら生きてきた。


未成年の時の私は誰よりも輝いていた。見る人によっては太陽にさえ見えていただろう。


そんな私は今、大人になった今、どうなったのか。


ただの燃料切れのガラクタだ。


計画もなしに燃やし続けてしまったからこうなるのは当たり前だったか。


だが、燃えていた時は熱量が凄まじく、これが永遠に続くと錯覚していた。


恒星の太陽だって百億年後には消えると言われている。そんな彼は今、自分が消えるなんてこれっぽっちも思っていないだろう。


面白い話だ。


そう、大人になるというのは人の輝きをどんどん失うということなのだ。


地獄の業火から火を取ると残るのは地獄のみ。


何ということだ。


もちろん、私のようじゃない、人の目を気にせず、生きることも気にせず、熱を持ち続けられる人もいる。


そんな人が羨ましい、なんて思う燃料さえ私には残っていない。


私に残っているのは熱がない思慮と側。


それに価値を見出せるか?出せる訳がないよな。


本当に虚無だよ、抜け殻、電池切れ、ゴミ。


だから私がこれからやることは燃料集め。


あの時の熱量をもう一度、あの温度をもう一度、私は持ってみたい。

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