第42話入学式
「えぇっと、そう落ち込まないで」
うなだれるアイラに、ルルが目線を合わせて励ましの言葉をかける。
「ありがとうルル。ここに来てからろくな目にあってないよ......」
「まだ学校生活は始まってもないんだから、これからきっと良いこともあるよ」
「そうだよね。うん、まだまだこれからなんだから!」
アイラは、立ち上がると自分の言葉を補強するように手を上げて拳を力強く握る。
「それに、フレンダもピンチはチャンスに変えられるって話してたしね」
「あれは何か違うような気がするけど......。まあそう考えとくか!」
「そう言えば、さっきアイラが貴族の人と喧嘩したって言ってたけど、アイラから喧嘩を売ってたりしてないよね」
「してないしてない! 売ってきたのは向こうだよ!」
アイラは、手を大きく横に振って全力で否定すると、喧嘩の経緯を説明し始めた。
「で、相手にまんまと乗せられて魔術を使おうとしたとこでさっきの男に捕まったって訳」
「そういうことだったんだ。良かったぁ、喧嘩したって聞いたときは、もしかしたら怖い人なんじゃないかって思っちゃったから」
「あははごめんね不安にさせちゃって。でも大丈夫! 村じゃ清廉潔白を形にしたような存在だって呼ばれてたんだから」
「ホントに~? それ、嘘でしょ」
ルルが、ニヤニヤしながらアイラの顔を覗き込む。
「ふふふ、嘘です」
二人は、顔を見合わせてケタケタと笑う。
「ん? でもまって、アイラって魔術が使えるの?」
アイラは、得意気に口角を上げると意味ありげに人差し指を突きだし、ルルの視線が指先に向いたのを見計らって小さな火を灯す。
「え! すごいすごい! 本当に使えるんだ!」
「ふっふっふ。村じゃ天才美少女魔術師って呼ばれてたからね」
「それは嘘だね。でも、天才って部分は合ってるかも」
恍惚の表情で指先を見るルルに、アイラはさっきまでのやりきれない気持ちが一気に吹き飛んだ。
「杖が使えるならもっとすごいことだって出来るよ」
「ほんとに?! 見たい見たい!」
「見せてあげたいけど、さっき怒られたばっかりだからこれ以上は無理。でも、機会が来たらきっと見せてあげるよ」
「きっとだよ!」
「天才魔術師は、嘘をつかないからね」
アイラは、指先をくるっと一回転させて火を消す。
「でも、この学校には魔術が使える人達が集められてるって聞いたんだけど、ルルは使えないの?」
「これっぽっちも。でも、魔術の適性はあるから練習すれば使えるようになるって言われて、ここに来ることになったんだ」
「へ~。魔術が使える人しか来てないのかと思ってた」
「きっとここに来てる人の殆どは、私みたいに適性があるけど使えないって人だと思うよ。勝手に魔術なんか使ったら捕まっちゃうしね」
その話にアイラは、自分が周りから見て誉められた存在では無いことに気がついた。
「やばい。魔術を使おうとしたところを結構な人に見られてた気がするぅ~」
せっかくの前向き思考が音を立てて崩れ、アイラは頭を抱えてしまう。
「ここに来てる人は遅かれ早かれ魔術を使うことになるんだし、そんなに気にしないんじゃないかな」
「そうかなぁ、そうだったらいいなぁ。じゃないと貴族と喧嘩したヤバイ奴どころの話じゃなくなるー!」
「大丈夫だよ。周りの人がどう言おうと私は何とも思わないから」
アイラは、潤んだ瞳をまっすぐルルに向ける。
「私、ルルと同室で良かった」
「大袈裟だなぁまだ一日目だよ」
アイラが、ルルの人の良さに感動していると、廊下からけたたましい声が響いてきた。
「全員廊下に出ろ!」
二人は、恐る恐る廊下に顔を出すと同じように状況の飲み込めていない生徒達がちらほらと廊下に出てきていた。
「部屋から出ろと言うのが聞こえないのか! さっさとしろ!」
廊下の奥では鎧を身に纏った一人の男が声を張り上げており、もう一人がまだ開いていない部屋を手前から順番に開けていた。
とにかく外に出ていた方がいいと、二人して廊下に出ると隣からさっきの二人も飛び出して来た。
ウェイラは、アイラに気がつくと咄嗟に顔の前で両手を合わせて謝罪のポーズをとる。
「いやぁさっきはごめんね~」
「ごめんって、私だけ怒られたんだからね」
アイラが歩み寄ろうとすると、ウェイラは廊下の先をチョイチョイと指差して鎧の男が来ていると知らせて、アイラを牽制した。
「覚えときなさいよ」
アイラは、これ以上叱られるのはごめんだと、小声で恨み節を呟いて踏みとどまった。
鎧の男は、全ての生徒が廊下に出たことを確認すると、人数を数えながらぐるっと回って戻っていきもう一人に報告した。
ざわざわと落ち着かない中で、報告を聞き終えた男が怒号を飛ばす。
「ちゅうもーーーく!! 俺を先頭にして二列に並べ!」
言われるがままに列を作ると、もう一人の男が走って最後尾に着いた。
「静かにしろ! これからお前達を講堂まで連れていく! 列を乱すなよ!」
まるで監獄のように監視される中で、男を先頭に列が動き始める。
なぜ講堂に連れていかれるのか分からず、不安を抱えた一団は、途中で同じような一団と合流して宿舎を出ていった。
「あ、さっき来た場所だ」
アイラが呟くように、先程連れてこられた建物に列が入っていく。
そのまま薄暗い廊下を渡っていき、一つの部屋に通される。
中は、教壇を先頭に最前列から階段状に上っていく形状になっており、入室した順に前列から座っていった。
アイラ達四人は、後ろの方の席に座る。
全員が席に着いたのを確認して案内役の男が部屋を出ていったのを確認すると、それまで張り詰めていた空気が一気に解かれた。
「なにここ」
アイラが部屋を見渡しながら呟く。
「さっき言ってた講堂だとは思うんだけど」
「見たところ全員集められてるみたいだし、入学の挨拶でもするんじゃない~?」
「そんなことより見てください!」
興奮した様子のフレンダが、前方の席を指差した。
見れば、貴族と思われる一団が席を埋めている。
「あの中に例の殿方がいるのではないでしょうか?」
「どれどれ~?」
ウェイラが立ち上がって貴族の一団を見る。
「うるっさいあんな奴どうだっていいでしょ」
「え~いいじゃん教えてよアイラ~」
「あ、あんまり騒がしくするのは良くないんじゃないかな......」
「ルルはお利口さんだなぁ。そういうルルだって本当は気になるんじゃないの?」
「気にならないわけじゃないけど」
「ほら! ルームメイトもそう言ってるんだしさぁ」
「ふん、誰が教えるもんですか」
頑として貴族の方を見ようとしないアイラに、ウェイラはイタズラな笑顔を見せる。
「なら自分で見つけるからいいもーん」
「やれるもんならやってみれば?」
「だってアイラが喧嘩してるとこ見てたし。あ! あれじゃない?」
二人が揃ってウェイラの指の先を見ると、アイラも答え合わせをしてやろうとチラッと目を向けた。
すると、後ろからの視線に気が付いた一部の貴族が振り返り、運悪くその中にクライスも混ざっていた。
クライスは、アイラからの視線に気がつくと鼻で笑ってそっぽを向いた。
「間違いないあいつだよ。見覚えあるもん」
「なんか、アイラの言ってた通り感じが悪いね」
ルルは、アイラの反応を伺うように目線を向けると、アイラが顔をひきつらせていた。
だが、そんな三人を差し置いて一人別のことに夢中になっている者がいた。
「見ました?! 今あちらの方と目が合いましたわ!」
何を言ってるんだと三人が疑問に思っている中、フレンダは咳払いをして一呼吸置いた後、まるで貴婦人がやるように小さくしおらしく手を振った。
一体誰に向けて手を振っているのだろうと貴族の方を見ると、フレンダの視線の先に居るであろう男が同じように手を振り返し、また仲間達の会話に戻っていった。
「見ました?! 彼ったら笑顔で手を振ってくれましたわ」
「知り合いなの?」
「いえ全く。けれど、これから仲良くなって見せます!」
三人は、呆れて乾いた笑いしか出なかった。
と、扉が開き一人の男が部屋に入るなり叫んだ。
「静粛に! 学校長からのご挨拶がある!」
その言葉を皮切りに、ベルロックを先頭にしてゾロゾロと教師達が部屋に入ってきた。
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