食の街 フリシータ

空の巨大な影

 アランはアレカンシアの町「フォンテマグ」から西の隣国の街「フリシータ」へ向かっていた。空高く飛行しながら、眼下に広がる風景を楽しんでいた。澄んだ青空が広がり、雲が柔らかく漂う中、アランは軽やかに進んでいた。依頼人が待つ街へ、魔法調理器具を届けるための旅はゆったりとしていた。


 下には、広大な川が蛇行しながらゆっくりと流れ、その周囲には青々とした森が広がっていた。森の木々は夏の日差しを浴びてキラキラと光り、風に揺れる葉がささやくように音を立てている。ところどころ、広がる平原には色とりどりの野花が咲き乱れ、その中を流れる小川が細い銀の糸のように輝いていた。日差しが柔らかく降り注ぎ、草木の香りが風に乗って漂ってくる。アランは、その香りを感じながら、穏やかに空の旅を続けていた。


 突然、遠方の雲の中から巨大な影が現れた。それはアランを視界に捉え、ゆっくりとこちらに向かってくる。


 その影は、鋭い爪と厚い鱗に覆われていて、力強い翼で空を駆けていた。アランは警戒を強めたが、その生物の動きにはどこかぎこちなさがあった。アランは警戒し、距離を取りながら、本格的な戦闘を避けることを考えた。


 彼は右手に魔力を集中させると、その手が光り始めた。次の瞬間、強烈な閃光が空を照らした。


 魔獣は驚いて翼のバランスを崩し、急激に下降していった。魔獣が遠ざかっていくのを確認し、一安心して飛行を再開した。


 落下していくそれに目をやると、アランはその姿がドラゴンではなかったことに気づいた。よく見てみると、その生き物には前足がないことが分かり、代わりに羽根がその役割を果たしていた。目の前で見た「ドラゴン」に近い生物は、実は"レザレスト"だったのだ。


 レザレスト、通称ドラゴンモドキで知られるその生物は、地上にいたトカゲが突然変異し、空を飛ぶようになった魔獣だ。伝説のドラゴンと似た姿を持つものの、前足がなく、羽根に変化しているため、実際に近づかないとその正体には気づかない。


 「なるほど、ドラゴンじゃなかったか。本物のドラゴンだったら今頃どうなっていたか」


 アランはそう思いながら、再び空の旅を続けた。空は次第に夕焼けに染まり、星が瞬き始める頃、アランはキャンプをするために地上へ降りた。


 焚き火を囲んで簡単な食事を取りながら、静かな星空を見上げ、明日のフリシータへの旅を思い描いた。


 翌朝、日の出とともに目を覚ましたアランは、清々しい朝の空気を吸い込み、再び旅を再開する。やがてフリシータの街並みが遠くに見え始め、アランは最後のひとときを楽しむように、穏やかに空を飛んでいった。

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