前世で若くして病死した私は、今世の持病を治して長生きしたいです

ルリコ

0章 ミュラーの決断

第1話 いつもの朝

 太陽が照りつけるあたたかい朝。

 わたしは久しぶりに体がだるくなかった。


「おはようございます、お嬢様。体調はいかがですか?」


 彼女はわたしに仕えてくれているリエ。

 ライトブラウンの髪とうっすらハチミツ色の混じった眼を持つ、きれいなおばあさまだ。


「おはようリエ。今日はめずらしくどこも痛くないわ」

「それはよろしゅうございますね。今日は外出できるかもしれません」

「ほんと!?うれしい」


 じゃあどこに行ってみようかな?


 外出した記憶は数えるほどしかないから外について知っていることは少ない。

 前回は公園に行って、前々回はお店に行った。


 頭が妄想でいっぱいになっていると、リエがくすくす笑っていることにきづいた。


「リエ?」

「失礼しました。あまりにもお嬢様が楽しみになさっているので」

「楽しみに決まっているじゃない!」

「ではまず朝のお支度をしなければなりませんね」

「そうね、おねがい」

「かしこまりました」


 うきうきした気持ちでしたくをいつもより早く終わらせ、1階の食事をする広間に向かった。

 父と姉はもう席についていた。



「おはようございます、おとうさまっ、おねえさまっ」

「ミュラー、おはよっ」

「おはようミュラー。今日は調子がいいのかい?」


 まえから、ロイリーおねえさま、おとうさまの順だ。


「そうなのです。外出もできそうなくらいですわ!」

「それはよかった」


 けれど父は喜んでいるように見えなかった。


 ちょうどそのタイミングで母が弟のカイレーをだいて現れた。

 彼女も調子がよさそうだ。


「おはようございます、ケイリー様、ロイリー、ミュラー」

「ああ、おはようアマリ」

「おはようございますお母様」

「おはようございます、おかあさまっ」


 ケイリーは父の名で、アマリは母の名だ。


「カイレーも挨拶しましょう」

「………?」


 首を傾げて弟は母を見上げる。すごくかわいい。


「母上の言葉を復唱するのですよ?おはようございます」

「~~~~~」


 なにを言っているかよくわからないけれどかわいい。

 まだ2才なのにそれだけ言葉が理解できるなんてこの子はかしこいんだ!

 絶対そうだ。


 家令が食事がのせられているワゴンを運んできた。

 今日の朝ごはんはなんだろう?


「白身魚とにんじんのソテーとコンソメスープ、パンでございます」


 やったにんじんだ!

 野菜の中でもっとも好きなのはにんじんである。断然にんじんである。

 生でも焼いてもおいしい。

 これを食べられない人は人生損してるわ。


「お嬢様? お召し上がりにならないのですか?」


 いけないいけない。しかられる前に食べよう。

 



 にんじんばかりをたべすぎてリエにしかられていた頃、父が毎朝のルーティンであるかぞくかいぎを始めた。

 といっても、ほーこくや今日の予定決めなどである。


「今日はミュラーの体調がよいので私は2人で外出しようと思っている。アマリはどうする?」


 もんだいなく外出できるみたいだ。


「そうですね、私は溜まっている執務をしようかしら。あなたにばかり負担を押し付けていては悪いですもの」

「そんなことを気にする必要はないが………君はいらないと言ってもやるであろう。

 少しでも体調が悪くなれば必ず側仕えに訴えることを条件に認める」

「ありがとうございます」

「カイアスは乳母に預けるか?」

「いえ、執務室の端にベビーベッドを設けました。同じ部屋にいたほうがこの子も安心でしょう」


 母はいとおしそうに弟をなでた。彼はにこりと笑いすうっとねいった。


「そうだな。ロイリーは?」

「お昼まで家庭教師の先生が来てくださいます。その後は礼儀作法のレッスンが入っていますわ」

「分かった。頑張りなさい」

「はい、お父様」

「その他報告はあるか?」


 これは、そばづかえたちからのほーこくという意味だ。


「ございません旦那様」

「わかった。今日も職務に励むように」

「「かしこまりました」」

「ミュラー、2の鐘が鳴ったら出発する。それまでに準備しておきなさい」

「はい、おとうさま!」


 ようやく外出だー!






 キーンコーンカーンコーン。2のかねが鳴った。


 わたしたちは教会が鳴らすかねに合わせて生活している。

 1のかねで起きて、2のかねで市場や店がひらき、3のかねでランチ、4のかねでおやつを食べたりきぞくのおちゃかいが始まったりして、5のかねでディナー、6のかねでねる。



 父がかいだんを降りてきた。


「おとうさま早く行きましょう!」

「待ちなさい、1日は長いのだから慌てるな」

「1日は長くてもわたしが外に出られるときは少ないですわ!」

「………だとしても。そもそも私たちが行くところを知らないだろう?」

「そうでした。どこに行くのですか?」

「ミュラーは本が好きだろう?」


 つまり、としょかんに行くんだね!

 ゆめにまで見たとしょかんにやっと行けるんだ!


「ありがとうございますおとうさま!」


 まい上がってしまい走りだしたが体勢をくずしてしまった。父の手が支えてくれたので転びはしなかった。


「ミュラー? もう少し淑女らしさというものをだね………」

「申し訳ありません、旦那様」

「ごめんなさい………」


 リエは悪くないのに謝らせてしまった。


「まあいい。行くぞ」

「はい」


 でも図書館は楽しみだわ。

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