第7話 地域と公共事業の狭間

西郷健一郎は、出雲市民との集会を終えた後、ふと故郷の奥出雲町を思い出した。彼が生まれ育ったその町は、山々に囲まれ、静かで自然豊かな場所だ。しかし、少子高齢化が進み、過疎化が顕著になっていた。自分が島根県知事になった理由の一つも、奥出雲のような地方の衰退を何とか食い止めるためだった。


西郷は総務省の元官僚として、都市計画や地方再生に関わる知識を持っていた。自分のキャリアを島根に活かすべきだという思いは、東京で働いていた頃から強かった。そして、家族もいずれ島根に引っ越してくる予定だったが、そのためには、彼の計画が成功し、島根が魅力ある地域にならなければならない。


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数日後、西郷は島根県全域の交通インフラ計画を検討するため、県庁内で専門家たちと会議を開いた。そこには、各市町村の代表も集まり、公共事業についての意見が交わされた。


「奥出雲町のアクセス向上についてですが、近年の過疎化が深刻です。現在の鉄道網では、若者や観光客を呼び込むことは難しいでしょう」と、奥出雲町からの代表が発言した。


「そこで、新幹線の延伸やローカル線の再整備を検討していますが、まずは現実的な案として、道路網の整備から始めるべきだと思います」と、土木技術者が資料を示しながら話した。


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「西郷知事、出雲市だけでなく、松江市や浜田市、益田市といった他の主要都市へのアクセス改善も必要です。特に、浜田市から益田市にかけてのエリアは、現在の道路状況では産業発展が難しいです」


西郷は静かに資料に目を通しながら、うなずいた。


「確かに、島根の未来を考える上で、交通インフラの整備は避けられない。だが、どうしても予算の限界がある。出雲市に県庁を移すことに加え、島根全域を繋ぐ交通網を作り上げることが急務だ」


そこで彼は、以前から構想していた新幹線計画について言及した。


「山陰新幹線の延伸が長らく検討されていますが、ここで本格的に推進するべき時が来たと思います。出雲市、松江市、そして隣接する鳥取県との連携も視野に入れ、交通ネットワークを根本から見直す必要があります」


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その夜、西郷は自宅に帰り、妻の涼子と電話で話した。涼子は東京に住んでおり、息子はまだ小学校に通っている。


「健一郎、あなたの計画がどんどん大きくなっているみたいね。奥出雲のこともちゃんと考えているの?」


「もちろんだ。俺がここで知事をしている理由は、奥出雲やその他の町を守るためでもある。島根全体を一つに繋げるために、新幹線や道路の計画を進めているんだ」


涼子はしばらく黙ってから、静かに言った。


「私たちもいずれ島根に引っ越すけど、健一郎がちゃんとやっているなら安心できるわ。でも、無理だけはしないでね」


「分かってる。君たちが引っ越してきた時には、島根をもっと住みやすい場所にしておくよ」


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翌日、西郷は浜田市へ向かい、市長の谷口と会談した。浜田市は島根県西部に位置し、かつては漁業や港を中心に栄えていたが、近年は経済的な停滞が続いていた。


「西郷知事、私たち浜田市も、出雲市と同じように活性化を望んでいますが、交通アクセスの悪さが大きなネックです。高速道路の延伸計画や、新幹線の誘致に協力していただけるとありがたい」


「分かりました、浜田市のインフラ改善は私も重要視しています。港湾都市としての利点を活かしつつ、観光と物流の両面で発展できるような計画を進めましょう」


谷口市長は感謝の意を示しながら、これからの協力を誓った。


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一方で、西郷が県庁移転を進める中で、藤堂悠一の妨害は激しさを増していた。藤堂は出雲市のみならず、松江市や他の市町村にも影響力を行使し、中央政府からの圧力を強めていた。


「知事、中央からの反発が強まっています。特に松江市は、県庁を失うことによる経済的な打撃を懸念しており、市民からの反発も増えてきています」と側近が報告する。


「そうか…だが、これも想定内だ。俺は簡単には諦めない」


西郷はさらに地域の声を取り入れ、交通インフラの整備や公共事業を推し進める決意を固めた。島根全域を一つに繋ぎ、発展させるための挑戦はまだ始まったばかりだ。


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次回、西郷は中国地方の知事との連携を模索しながら、新たな交通計画と公共事業を進める中で、藤堂との対立が新たな局面を迎える。果たして、島根の未来をどう切り拓くのか。


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