第5話 ~千葉、魔物のせいでやばいってよ~

 ここはどこだ?……そうか、近くのダンジョンがオーバーフローして、そっから……どうなった?今俺はどこにいる?みんなは?どうなった?

 なにも見えねぇ……そもそも目が開けれない、痛い……身体になにか、石?が乗ってて身体が動かせねぇ……

 それに何も聞こえない……いや、なにか水の音が聞こえる……コポコポッって、なにかが俺の身体の中で蠢いてる?

 あぁ……気持ちいいな、温かい水の中で泳いでるみたいだ……


 !


「今!ただいま発生したオーバーフローにより!街が!千葉の街並みが一瞬にして崩壊しています!」


 ヘリのプロペラの轟音に負けないくらいの声量で、そう報道するアナウンサーは、悲惨な千葉の状況に顔を強張らせて、それを見守るしかなかった。


「あぁ!今まさに、魔物たちの手によって、あの歴史的建造物の三重塔が、千葉の、いいえ日本の宝が!今まさに魔物たちの手によって倒壊しました!」


 無残にも壊される建物、人、その全てを見ているが手は届かない、そんなもどかしさ無力感で感情がぐちゃぐちゃになるも、言葉を紡いでこの危機を、この惨状を報告するしかできなかった。


「皆さん逃げてください!どうか!千葉にまだ残っている人は逃――」


 まるでその叫びすら無駄だと言うように、アナウンサーが乗っていたヘリにどこからともなく瓦礫がぶつかり、そのまま力なく炎を噴き出しながら墜落していった。


 ”え、落ちた?”

 ”墜落した!”

 ”マジか!”

 ”新渡戸にとべアナあああああ!”

 ”千葉終わった”

 ”誰か止めてくれー!!”

 ”探索者たちはなにやってる?”

 ”はよ来いーーー!!”


「もう、ダメか」


 速報や現地の情報を配信するサイトでのコメントを見ながら、谷塚光たにづか みつるは千葉のアパートの中で震えて、探索者たちに助けを求めていた。


 既に外は火の海死体の山で埋め尽くされており、おまけに魑魅魍魎ちみもうりょうの行軍が外を跋扈ばっこしていた。


 どうやら建物の中に入れるような知能はなく、家の中にいればしばらくは安全だろう、しかし少しでも魔物たちに気配を悟られると、木造の家など簡単に破壊されてしまう。


「こんなことになるなら、家族旅行について行けば良かったなぁ」


 この日は谷塚家にとって大事な記念日であり、毎年恒例の家族旅行の日だった。


 だが、光は家族との仲が悪く、仕事はせず自宅に引きこもる所謂いわゆる引きニートであったため、ニートを始めた最初の2年間は家族と旅行に行っていたが、そこから段々と家族から誘われなくなったため、光は自然と行かなくなっていった。


 そんな光は探索者ではないので、掲示板やニュースサイトの生配信のコメント欄に「助けてくれ」と書き込むことしかできずにいた。

 だが、段々と魔物が集まってきて、もうこの家も危なくなっており、遂に自分は死ぬのか、と半ば諦めていた。


「彰!今だ逃げろ!」


 そんな声が外から聞こえてきた。


「お、おい!もしかしてお前戦うのか?」


 その会話を聞いて探索者が助けに来てくれたのかと思い、一階の窓から外を覗いた。


「あぁ!そんな」


 そんな希望も虚しく、探索者と思われる少年は叩き落とされ、1つ目の化け物に喰われてしまった。


「うぅ、お゛ぇえ」


 もちろん人が喰われる光景など、見たこともない光は思わず吐いてしまった。

 普段からダンジョンの配信を見ているので、魔物に対しての耐性がついてきたと思っていたが、やはり人が死ぬような過酷な配信ではなく、ダンジョンの浅い層で女の子が魔物をキャーキャー言いながら、魔物を倒すような配信ばかり見ていても魔物に耐性は付くだろうが、人が死ぬというものに耐性が付くはずもなく、光はまた布団の中に潜り震えているだけだった。


 先程まで1人で考えて、死ぬというのにも覚悟を決めていたというのに、目の前に現れた一筋の希望を一瞬見せられただけで、光の心の中には「まだ生きていたい」という気持ちが生まれてしまって、せっかく決めた覚悟もひび割れてしまうのであった。


「ひっ、なんだ?」


 そうして震えていると、突然光が住んでいるアパートの部屋の壁が、なにかによって破壊された。

 いきなりの衝撃にビックリした光は、まだあの魔物がいるかもしれないので、もう少し時間が経ったらそれを見に行こうと、少しの好奇心が生まれてしまった。


「リビング……か?」


 そうして好奇心が生まれた光は、音のしたリビングの方に見に行ってしまう、そこには崩壊した壁と瓦礫に埋もれた少年がいた。


「人?生きてるのか?」


「す、翠……母ちゃ、ん……」


「!生きてる!」


 光は瓦礫に埋もれた少年に近付き、瓦礫から飛び出た2本の腕を掴み部屋に引きずった。

 幸い周りに魔物はおらず、安全に少年を中に入れられ、瓦礫が退いたその顔を見てギョッとする。

 顔の上半分は潰れているが、グジュグジュと肉が蠢き段々と治っているように見える。


「た、探索者なのか?」


 その異様な光景に探索者の特異な能力が頭をよぎり、光は自然にそう呟いた。

 見たところ身体全体を満遍なく治癒しているようだが、それも遅く能力が発動しているが、本人は気絶していた。

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