File11:Party!

「さあ皆さん、ご来場いただきましてありがとうございます!」


 ソフィアの声が会場に響く。今日は『異種族合同パーティ』の当日だ。


 研究所の地下にある広大な実験場。その一角がパーティスペースとなっている。参加者のサイズや生態に合わせたテーブルや食器、料理、飲み物を準備した上で会場を準備している。皆、家族や仲間を連れてきていて賑やかだ。


 ドラゴンの家族は見慣れない肉に舌鼓を打ち、鳥人間たちは珍しい魚料理を楽しんだ。イルカ人は乾かないよう水槽の中に設置されたテーブルで甲殻類を食べ、タコも同じテーブルで貝類を味わう。ラミアは大きな卵焼きを家族で分け合い、獅子男は同種の女性と共に肉を貪る……近くにいる竜をかなり気にしていそうではあったが。エントはさすがに本人が来ることは難しいため、育てた実を植えた鉢が、テーブルの上に卓上花のように置かれている。まだ一メートル程度の大きさだが、一応顏があり、笑みを浮かべているように見えた。


 一応、各種族がコミュニケーションを取れるように、それぞれの言語変換できる翻訳機を来場者には渡してある。――まぁとはいえ、さすがに初対面の多種族と会話が弾みはしないだろう。それぞれに連れもいるわけだし。……というわけで。


「さて、せっかくのパーティ、皆さんには交流を深めてもらいたい……ということで、皆さんで楽しめるゲームをご用意しました! ボーリング!」


 ソフィアの呼びかけに合わせ、広大な実験場に七つのレーンがせりあがってくる。もちろん種族のサイズに合わせてあり、具体的には竜のレーンはバカデカい。さらに、傍らにあるボールも種族サイズに合わせた大きさと重さになっている。


「ルールは各言語で冊子を用意しました! 十分後から始めるので皆さん読んでおいてね! 賞品もご用意しております! こちら!」


 台と共にせりあがってきたのは、様々な瓶、缶、樽。古今東西あらゆる種族が祝いの席で口にするもの。それは――。


「お酒です! 発酵により作られた神秘の飲料! 神すらも酩酊させ、あらゆる魔を払い、清める力を持ちます! 皆さん、偶然できたものを飲んだことはあっても、自分の力で『造った』ことはないんじゃないですか? これは旧人類史の技術によって生み出された最高の品々です。尚、お子様にはジュースをご用意しておりますのでご安心を!」


 各種族たちが興味深そうに酒類を見つめている。実際、各種族の技術レベルからすると精々ブドウの果実が自然発酵した果汁を飲んだことがある程度だろう。酒、という概念すらないかもしれない。


「せっかくですから皆さんに試飲をしてもらいましょう。まだ馴染みがありそうなワインで……白のほうが飲みやすいですかね。甘味が強めのやつを――どうぞ」


 ソフィアの言葉に合わせ、シィがそれぞれのテーブルにあったグラスに少量ずつ白いワインを注いでいく。各種族、恐る恐る、という感じで飲んでいくと……。


「ほう……甘みだけでなく複雑な味わいと、酩酊感……なるほど。これが造られた酒か」


「おいしー!! お代わり!」


「色々食べ物に合わせるのも良さそうだね」


 様々な意見が飛び交う。翻訳機を通しているから、すべてが共通語に変換されて聞こえている。


「好評なようで何よりです! では、これらの商品を掛けた戦い、さっそく始めていきましょう! 第一回異種族対抗ボーリング大会、スタート!」


 第一レーンから、ドラゴン、鳥人間、イルカ人、タコ、ラミア、獅子男と並んでいる。さすがにエントは投げられないので――。


「エントさんは本体が参加できていないので、代わりにシィちゃん!」


「ええ!? 私ですか! 聞いてないんですけど!」


 シィは驚きの声を上げる、が、ソフィアは無視。


「知ってたら有利になっちゃうもん。さ、じゃあサクサク行きましょう。ボールは種族ごと一個しか用意していないので、一投ずつ。全員同時に投げてもらって、みんな終わったら次、って感じで同時進行していきます!」


 各種族、一名の代表者がレーンの前に立つ。ボールの持ち方も様々だ。一応指を入れる穴はあけたが、当然ながらドラゴンやタコがそこに指を入れるのは困難だろう。――タコは、変身すればいけるかな。


「――ふん。要するに、あのピンをこの球で倒しさえすればいいんだろ? なら簡単だ、思いっきり――投げてやりゃあいい!」


 獅子男は下からではなく、力任せに上投げでボールを投げた。……まぁ、投げ方細かくは指定はしてないな、基本的にはこうですよ、とはルールに書いてあるけれど。


 獅子の膂力で投じられた球は、狙い違わず十本のピンの真ん中あたりに突き刺さり、衝撃波ですべてをなぎ倒した。おお、ストライク。


 フン、と偉そうに鼻を鳴らす獅子男。その様子を見て――他の連中も本気になったようだ。……いや、ゲームだからね。


「てりゃあ!!!」


 ソフィアの心配をよそに、鳥人間がボールを思い切りサイドスローで投げた。獅子ほどの腕の力はないはずだが、不思議な力によって、高速で球が飛び、やはり十本のピンを綺麗になぎ倒した。――これ、魔力的なもの、使ってるな?


「そういうのもアリなんだ。じゃあ僕も――」


 今まで完全に軟体動物だったタコが突然人型に変身した。どよめく周囲。


「いっけえー!!!」


 タコの手の中の球は青く輝き、レーンを滑っていく。投げ方はルールに沿っているが、なんか水に包まれてるし光ってるし、明らかにおかしい。ピンに接触した瞬間、爆発を起こして周囲に水を撒き散らす。その勢いで十本のピンはすべて倒れた。……うん。これ、ボーリングじゃないね。


 その後もラミアは球に毒を纏わせピンを溶かすわ、イルカ人は超音波を放つわめちゃくちゃである。そして――。


「ふん。まだまだ甘いな。我の力、見せてやろう」


 ドラゴンはボールをと、息を大きく吸い込み――火炎と共に吐き出した。レーンもピンも木っ端みじんである。


「見たか!」


「見たか! じゃない! ルール見たか!?」


 ソフィアの叫びは届かない。それどころか。


「なるほど……これがボーリング。任せてください先輩。私も全力を出します」


「ちょっとシィちゃん! 落ち着いて!」


「私の腹部には荷電粒子砲が搭載されていますから、ピンなんぞ消し炭です」


 シィは謎の対抗意識を燃やしていた。


「シィちゃんステイ! ちょっと待――!」


「波ァ―!!!!」


 大昔の少年漫画のような叫びと共に、両手を添えた腹部から放射されたシィちゃんビームはボーリングのピンを破壊した後、実験場の壁に大穴をあけた。


「ゲーム中止! 全員反則負けだー!!!!!!」


 ソフィアの叫びが研究所の地下に響く。第一回のボーリング大会は、残念ながら大失敗に終わった。……まぁ、各種族がそれぞれの戦闘能力を知るきっかけになったのは、良いことかも。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「まったくもう! わざわざ各言語に翻訳したルールも用意したのに! みんな守る気はないの!?」


 ソフィアは全員を正座させて説教をしていた。


「……だが、勝負であれば全力を出さないと……」


 ドラゴンの言葉にみんな似たような表情で頷いている。


「……ここには戦闘民族しかいないのか……みんなの要望はよくわかった! じゃあ予告通り、やりますよ! 『最強決定戦』! 休憩をはさんで三十分後! お互いを攻撃しても怪我しないようなシールドを張ったうえで、一対一の戦闘を行います! 勝ったらさっきの賞品!」


「おい。参加者はこのメンバーか? ……であればやる必要はなかろう。我の勝利は確実だ。――貴様らとの戦闘なら、やる価値はありそうだが」


 ドラゴン――ディアスボラが淡々と告げる。実際、ドラゴン以外の種族もそれは薄々感じてはいるだろう。そもそもサイズ差があり、魔力の量もおそらく異なる。生き物としての強度が違うのだ。


「ま、そうなるよね。だから無理に総当たりとかトーナメントとかにする気はなくて、実力が拮抗してそうな相手との戦いをしてもらおうかなと思ってたんだ」


「ほう。ならばやはり我と貴様らか?」


「ううん。私たちは、いうなればボスキャラだからさ。――ちゃんと用意したよ、ディアスボラ。あんたが楽しめそうな相手をね」


 ソフィアの言葉と同時、彼女の後ろに炎に包まれた巨大な男性が現れる。


『ずいぶんな自信だな、羽トカゲ。――生命なんぞに縛られている分際で、良く吠えたものだ』


『ほう……精霊か。面白い』


 突然現れたイフリートに驚くこともなく、ディアスボラは静かに笑みを浮かべた。――ライバルの出現に喜ぶかのように。


◇◆◇◆◇◆


 レポートFile11:攻撃方法まとめ


・ドラゴン

 爪、牙、羽や肉体を使った近接攻撃に加えて、種族ごとのブレスを使う。また、高い魔力を持っており、翼を補助して飛行を可能とする他、『魔術』と呼ばれる魔力を使用した攻撃や回復、補助の手段があるらしい。詳細は不明。


・鳥人間(バードマン)

 槍、剣などの手持ち武器に加えて、足のカギ爪での攻撃も可能。また、魔力を有しており、その力で高速飛行を可能とする他、風に関する『魔術』を使えるとのこと。


・イルカ人(ドルフィンマン)

 両手で武器や道具を扱うことができる他、水中戦においては高速で泳ぎ、体当たりをするなどの攻撃も可能。尾びれも結構力強い。また、超音波を使うことができ、コミュニケーションの他、索敵、攻撃手段として用いることができる。また、水に関する『魔術』の使用も多少できる。あとバブルリング。


・タコ

 八本の腕を使った攻撃に加えて、墨を吐いての攪乱、さらに形状変化である程度自由な姿に変身が可能。また、高い魔力を持っており、水に関する様々な『魔術』を使用することも可能。


・ラミア

 両手で武器や道具を使える他、牙や爪があるのでそれらを用いた攻撃も可能。また、毒を持っており、噛んで相手に注入する他、飛ばすなどの行動も可能。『魔術』を用いることで、毒の強さを強化することもできる。また、蛇の特性として非常に強力な締めあげが可能な他、優れた皮膚感覚や嗅覚、ピット器官などのセンサーも持ち合わせている。


・獣人(ライオン)

 爪や牙はもちろん、高い筋力と優れた身体能力を用いた近接戦闘を得意とする。あまり好まないが道具を使うことも可能。また、吠えることで相手を怯ませたり『魔術』で肉体を強化し、筋力以上の力を発揮することもできる。


・エント(楢の木)

 枝や葉、根、実を硬質化させて攻撃をすることができる。また、高い魔力を持ち様々な『魔術』を扱うことが可能。さらに実を用いて自らの分身とすることもできる。また、優れた意思疎通能力により、他の生き物たちをある程度操ることもできるらしい。


・精霊(炎)

 魔力の塊。触れれば火傷する。本人の意思次第で触ることもできるが、実体をなくすことも可能。本体が魔力なので基本的には物理攻撃が効かない。魔力での攻撃でのみダメージを与えることができる。巨大な炎を放ったり、周囲を火で覆ったり、炎を使ったあらゆる攻撃が可能。


・機械人形

 各種銃器の他、近接戦闘用のアタッチメント、小型兵器を任意に操作してのオールレンジ攻撃、荷電粒子砲、高速移動用のバーニア装備や水中用換装など、装備品に応じてあらゆる場面での柔軟な戦闘が可能。ただ、武器や戦術の得手不得手はそれぞれの個性としてあり、ソフィアは近距離~中距離戦闘を得意とするが、シィは長射程兵器を用いた遠距離戦闘を好む。

 




 


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