変態じゃない

「さっきまでここに悠夜ゆうやさんが……っと危ない。これじゃ悠夜さんをからかえなくなっちゃう」


 悠夜さんとの初デートをして、夜も遅くなってきたからと悠夜さんは家に帰ってしまった。


 お泊まりを提案はしたけど、正直私にはまだそこまでの覚悟は決まっていない。


 だから悠夜さんが断ってくれて助かった。


「さすがにまだ早いよね。それに私の『秘密』もまだ隠しておきたいし」


 悠夜さんが泊まると、私のバレてはいけない秘密がバレる可能性が高い。


 悠夜さんのことだから特に気にした様子もなく、下手したら「可愛い」とか言ってくれるだろうけど、女の子としてはバレたくない。


「まあでも、今更そんな秘密がバレたところで、今日の痴態は隠せないんだけどね……」


 さすがに今日のあれはやりすぎた。


 いくら思いついて悠夜さんの反応が見たかったからって、自分の下着を見せるなんて本当に変態だ。


 悠夜さんが理性を失ってくれる可能性もあったから、さすがに洗ってあるものを置いたけど、それでチャラになるようなものでもない。


 悠夜さんは優しいから二度と話題には出さないだろうけど、内心では私を「痴女」と思っていてもおかしくはない。


「さすがに間違えたかなぁ……。いや、間違えてはいるんだよ。でも、きっと悠夜さんはもっと私を意識してくれたはず!」


 悠夜さんは私のことを「可愛い」とか言ってくれてるけど、悠夜さんにとって私はまだバイト先の後輩でしかない。


 だから今日は色々と頑張ってみたけど、空回りしてないと言ったら嘘になる結果ではあった。


「いや、してない。ハイテンションだったのは仕方ないし、私が変態さんだって思われたとしても、悠夜さんならそれも軽く受け止めてくれる……はずだし」


 悠夜さんの反応を見る限りでは大丈夫そうだったけど、やっぱりどう思ったのか聞きたい。


 だけど本当に変態の痴女とか思われてたらショックで寝込む自信はある。


 自業自得だけど。


「もういっそ悠夜さんの前では痴女になって、既成事実とか作っちゃえばいいのかな?」


 正直それもありだ。


 私の魅力では悠夜さんの考え方を変えられないと認めたようになるから嫌だけど、一番手っ取り早く悠夜さんと付き合える方法でもある。


 だけどそれは悠夜さんに一生責任を感じさせる方法でもあるから、本当に最終手段だけど。


「というか、私の下着見たんだから付き合うまではいかなくても、お詫びにキスぐらいはしてくれていいと思うんだけど。まあ見せたの私だけどさ」


 下着を見た時の悠夜さんの反応だけで満足ではあるけど、その後にお説教されたのはちょっと納得がいってない。


 言いたいことはわかるし、私が全部悪いんだけど、見たのは確かなんだからと、何かを求めるのはめんどくさい女だろうか。


「私ならめんどくさくて嫌になるなー。悠仁さんなら本当に何かしてくれそうだけど。優しくて好き」


 今の私の顔を悠夜さんには見せられない。


 すごいニヤニヤして気持ち悪いだろうから。


 だけど悠夜さんなら可愛いって言ってくれるかも……


「って、悠夜さんに甘えすぎ。もしも悠夜さんと恋人になれたらもたれかかっちゃうんだろうな」


 今でも寄りかかっているのに、恋人になれたら歯止めが効かなくなる。


 もしかしたら、悠夜さんに私の痴態を見せられてるのは良かったことなのかもしれない。


「いきなりもたれかかったら引かれちゃうかもだし。引かれなかったとしても、悠夜さんに気を使わせるのは嫌だもん」


 悠夜さんを好きになったのは私で、それなのに悠夜さんの優しさに甘えるのは違う。


 悠夜さんが私のことを特別視してくれてるのはわかっても、私のことを異性として好きかどうかはまだわかっていない。


 好きか嫌いかで言ったら好きだとしても、私を完全に恋人候補として考えてはくれてない。


「悠夜さんは私の将来の心配をしてくれてるけど、多分それだけじゃないんだよなぁ。私の本気度合いがわかれば悠夜さんも本気で私との関係を考えてくれるだろうけど、今はまだその段階に行けてない感じだもんね」


 私を養うことができないから私とは付き合えないと悠夜さんは言った。


 私としては今の時代男の人が稼いで女の人が家事をするなんて古臭い考えだと思っている。


 だから私が悠夜さんを養えるだけ稼いじゃえばそれだけで悠夜さんが私と付き合えない理由は無くなる。


「今度話してみようかな。いっそ二人でお店をやるとかでもいいし」


 夢を語るのは誰にだって許された権利だ。


 だけどそれが実現したら悠夜さんの言う私と付き合えない理由は本当に解消される。


「でも悠夜さんは実現性がないから駄目って言うよね」


 悠夜さんは合理的すぎるからもっと現実味のあることを提案しないと納得してくれない。


 だから私を養うとかそういうのを無しにして、私と付き合いたいって思わせようとしたけど、ここまでくると悠夜さんが私と付き合いたくないから無理やり理由を付けてるように感じてしまう。


「やっぱりあの噂って本当なのかな……」


 私が悠夜さんに告白をした理由。


 好きな気持ちが抑えられなかったのもあるけど、バイト中に聞いてしまった。


 悠夜さんに好きな人がいると。


「それなら私と付き合えないのも納得なんだよね。でもそれなら私を突き放すはずだし……」


 そう思ったけど、悠夜さんはそんなことしない。


 悠夜さんは優しすぎるから、相手がたとえ嫌いな人だったとしてもその人が嫌がることは絶対にしない。


 私は一応悠夜さんとお話できるぐらいには仲良くしてもらってる。


 だから私が悠夜さんと離れることを嫌がることがわかっているのに、突き放すことは絶対にない。


「悠夜さんに好きな人がいるなら酷だけど、チャンスをくれてるとも考えられるんだよね」


 悠夜さんに好きな人がいるというのはあくまで噂で、確実な証拠なんてない。


 だけどもしもいたとして、それでも私とデートをしてくれるのは可能性を感じてもいいはずだ。


「ていうか好きでもない相手とデートしないよね。悠夜さんがデートって思ってなくても、今日のは絶対にデートだもん」


 悠夜さんは認めないかもだけど、そもそも悠夜さんみたいに下心をどこかに無くした人が、好きでもない女の子の部屋に入るなんてありえない。


 何がなんでも断って別の場所を提案するか、下心を感じて帰るはずだ。


 私が無理やり連れ込んだ? なんのことか。


「じゃあまずは悠夜さんに好きな人がほんとにいるのか探るところからか。いないんだったらこのままアプローチを続けて、いるんだったら誰かだいたい想像つくし、頑張って勝ってみせる」


 悠夜さんが好きになりそうな相手なんてすぐにわかる。


 何せ悠夜さんと仲良くお話してる人なんて私を入れたらもう一人しかいないんだから。


 私の知らないところの知り合いだとわかないけど、それならバイト先で噂になるのはおかしい。


 それに悠夜さんは話せる相手が片手で足りる数しかいないって言ってたし。


「さすがに嘘だろうけど、悠夜さんはバレてもいい嘘と、ほとんど真実な嘘しかつかないから、嘘だとしても両手で足りる数しか……」


 私が言えたものじゃないけど、そんなに少ないのか。


 悠夜さんが自分から話しかけないのもいけないんだろうけど。


「いやいや、ライバルが少ないのはいいことだよ。まあその分ライバルが強敵になるんだけど」


 悠夜さんと話せるとは、悠夜さんと親密な仲ということだ。


 つまり私と悠夜さんは親密ということになる。


「おっと、また悠夜さんに見せられない顔になるとこだった。よし、これからの作成も決まったしご飯食べて寝よ。悠夜さんの残り香も無くなってきたし」


 名残惜しいけど、悠夜さんが座ってた場所から立ち上がる。


 そしてキッチンへ向かう途中、倒していた写真立てを直す。


「今日は何を食べようかなー」


 私はそう言って冷凍庫を開ける。


 今日の冷凍食品晩ご飯を決める為に。

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