第6話 初デート④
「さて、お説教を開始しようか」
「あ、あれは
ちょっとした事件があったおかげ? で復活した
ちょっとした事件とは、少し気まずい雰囲気になってしまったので、特に意味はないけど手を洗い直した俺が左側にあるタオルで手を拭いたのだけど、珠唯さんの言う通り気を抜いた俺はトラップに引っかかった。
そう、左側には洗濯カゴがあり、ガッツリ視界に入ってしまったのだ。
「いや、確かに見たのは俺が悪い。だけどその後に君は嬉しそうになんて言った?」
「悠夜さんのえっちさん?」
「そうだな。俺はしまえと言ったのに、それでもしまわなかった君に俺はからかわれたな?」
「えっと、言わせてもらいますと、ここは私の住んでる場所で、だから私の下着が洗濯カゴに入っているのは当たり前なことでは?」
珠唯さんが右手を挙げながら正論を言う。
その通りだ。
ここは珠唯さんの住んでいる場所で、珠唯さんのものがあるのは当然なこと。
だけど……
「男の俺を招くんだから見えないようにしときなさいって話ね」
「だって悠夜さんの反応見たかったので」
「さっき聞いた。だからお説教なんでしょ?」
珠唯さんが俺になら見られてもいいというのはさっき聞いた。
だけど俺だって男なのだから、珠唯さんのような可愛い子にそんなことをされたら理性が飛ぶ可能性だってある。
だから今ここでちゃんとお説教をしないといけない。
「もしも悠夜さんが私を襲ったらそれはそれでいいんですよ」
「意味わかって言ってる?」
「はい。悠夜さんなら責任を感じてちゃんと責任取ってくれますもん」
「考え方が悪女すぎないか?」
珠唯さんへの返事を先延ばしにしてる俺が悪いのだけど、それでも考え方がえぐい。
珠唯さんに何をされても動じない鋼の意志を手に……入れられたら苦労はないのだけど。
「自分に素直になっていいんですよ?」
「俺を甘やかすな」
「まさかそっちの趣味が……」
「あなたにいじられるのは嫌いじゃないけど、そういう趣味はないから」
こうして珠唯さんにからかわれるのは嫌いではなく、むしろ楽しく思っている。
だけどだからって、いじられたいとか思ってるわけではなく、多分珠唯さんだからそう思えるだけだ。
「私にならいいんですね」
「うん。嫌な感じはない」
「じゃあこれからもたくさんいじりますね」
「楽しみにしてる」
「私に何されてもいいってことですか……」
珠唯さんが小声で何かを呟いたようだけど、小さすぎて聞こえなかった。
なんかチラチラ俺のことを見てるけど、一体なんなのか。
「っと、騙されるところでした」
「何が?」
「私だけとか言って、
珠唯さんが少し拗ねたように頬を膨らませる。
珠唯さんの言う『紅葉さん』とは、
同じ学校というだけで、特に仲が良かったわけではないけど、たまたま同じバイト先になって少し喋るようになった。
「休憩とか終わりの時間が一緒の時に少し喋るぐらいだし、それぐらいは普通だろ?」
「全然違います。悠夜さんが紅葉さんと話す時は、なんか、こう、楽しそうですもん」
それはさっき聞いたのだけど、珠唯さんは何かを言いたいけど言葉が出てこないようだ。
言葉を捻り出そうと頑張る姿がまた可愛い。
「悠夜さんが紅葉さんと楽しそうに話してるの見るとモヤモヤするんです」
「そういうものなんだ。俺からしたらあなたと話してるのは楽しいって思うけど、あの人と話すのは……まあ別に楽しくないわけではないけど」
山中 紅葉も珠唯さん同様名前呼びができない相手の一人だ。
基本は名字にさん付けで呼ぶのだけど、同級生にさん付けするのがなんか嫌だ。
なんか馬鹿にされそうだし。
「やっぱり楽しいんじゃないですか」
「あの人はあなた同様に話しやすいから」
「じゃあ──」
「まあ、あなたの方が格段に話しやすいけど」
小中で絡みがなかったとはいえ、バイトで数年一緒にいた山中 紅葉と、半年前に入った珠唯さんでは出会ってからの時間が違う。
だから普通は山中 紅葉の方が話しやすいのだろうけど……
「確かにあの人とも話すけどさ、多分話した回数あなたとの方が多いよ?」
「だ、だって、私はずっと悠夜さんのことが好きで、いっぱいお話したかったから……」
「ありがと」
珠唯さんがあわあわしながら話しているのが少し面白かったので、少し笑いながら感謝を伝えてしまった。
すると珠唯さんは「反則ですよぉ……」と、顔を両手で押さえながら丸くなっていった。
「今日はご褒美が多いね」
「つむじ見るの禁止です!」
「可愛いのに」
「くっ、負けるな私。今のは私が可愛いって言われたんじゃなくて、私のつむじが可愛いって言われたの。勘違いしたら駄目」
珠唯さんがつむじを押さえながら独り言を始める。
確かに俺は珠唯さんのつむじを見て可愛いと言ったけど、そのつむじは珠唯さんのものであって、珠唯さんに可愛いと言っているのと同じだと思う。
まあそんなこと恥ずかしいから言わないけど。
「そんなことよりお説教な」
「私の下着なんて見せてすいません」
「そっちにいくのな。これで肯定したら普通に最低で、否定したら変態になると」
「私は変態な悠夜さんでも好きですよ」
「やめて、あなたの口から『変態』なんて聞きたくない」
俺のことをからかって遊ぶのが趣味な珠唯さんだけど、俺の中ではまだ穢れのないいい子だ。
だからそんな珠唯さんの口から「変態」なんて言葉を聞くのは抵抗がある。
「私のこと買いかぶりすぎでは?」
「だって天使みたいなものでしょ?」
「あの、普通に照れるので真顔でそんなこと言うのやめてくれます?」
珠唯さんが顔を半分だけ上げて俺をジト目で睨む。
まあ珠唯さんは天使というよりは小悪魔に近いのだけど。
「私を照れさせたので、正直な感想をください。私の下着を見たの、嬉しかったですか?」
「濁すのは禁止?」
「はい。正直に思ったことを教えてください」
「正直、恥ずかしさでいっぱいだったかな。知ってると思うけど、俺には姉がいるんだけど、あいつは俺の前で下着なんて当たり前なんだよ。姉だからってのもあるだろうけど、少なくとも俺は女性物の下着を見てもなんとも思わないってことは確か」
ブラコンを自称する姉を持つと、女性物の下着なんてほとんど毎日のように目にする。
だから女性物の下着には耐性があると思っていたけど、珠唯さんのを見た時は普通に恥ずかしくなった。
つまりはそういうことなんだろう。
「それで?」
「今のは濁した判定ですか?」
「はい。正直に嬉しいか嬉しくなかったかで答えてください。それとお姉さんのことも詳しく」
「その二択しか選べないなら、嬉しいになるよ。俺はあなたに否定的な感情一切ないから」
言いながら恥ずかしくなって珠唯さんの顔が見れなくなった。
この子は一体何を言わせるのか。
そもそも珠唯さんみたいな可愛い子の下着を見て嬉しくない男なんて、強がってるか女性恐怖症な人ぐらいだろうし。
「今のでいい?」
「……悠夜さんのえっち」
「理不尽。つーか姉以外で見るの初めてなんだから感想なんて求めないでくれる?」
「お店とかでもですか?」
「わざわざ見る必要ある?」
男が女性物の下着を眺めているなんて通報案件だ。
売り場があるのは知っているけど、俺はそもそもそういうところは用が無くて近寄らない。
「家族はノーカンだから、私が悠夜さんの初めて……」
「聞こえてるからな? 聞こえたついでに言っとくと、あなたは俺の初めて結構取ってるから」
「え?」
こうして女子の家に上がるのは幼稚園の時に親に連れられた時を除けば初めてだし、名前を覚えるのが苦手な俺が出会ってすぐに名前を覚えた相手。
そういう小さいのも加えると本当に色んな初めてを珠唯さんは取っている。
そして何より告白されたのは当たり前だけど初めてだった。
「こうして一人のことをずっと考えさせられるのも初めてだし」
「わ、私のことをずっと考えてくれてるんですか?」
「当たり前でしょ? 帰ってもずっとあなたが頭から離れないよ」
家に帰っても特にやることがないから困ることはないけど、珠唯さんに告白されてから珠唯さんが頭から離れたことがない。
まあ元から珠唯さんを送った日は夜に思い出すことはあったけど、最近はそれが毎日続く。
「さすがに告白されたら意識するよ」
「はわ……」
「急に可愛くなってどうした?」
珠唯さんが顔を真っ赤にしてオロオロしだした。
何かあったのだろうか。
「気分悪い?」
「ち、違いますです。嬉しさと嬉しさが合わさって私が壊れました」
「よくわからないけど、大丈夫なの?」
「だ、大丈夫です。でも、クリスマスまでには付き合いたいですよね」
珠唯さんが照れてるのを誤魔化すように笑いながら言う。
もう来週から十二月になり、約一ヶ月でクリスマスになる。
クリスマスと言えば恋人と過ごす日みたいな常識があるから、珠唯さん的にはそれまでに恋人を作りたいものなのだろうか。
「クリスマス前に付き合ってそのままクリスマスデートです」
「あっさり他の人と付き合ったら笑う」
「あはっ、そんなこと言うんですねぇ」
どうやら選択を間違ったようだ。
上機嫌な珠唯さんが俺ににじり寄って来る。
初デートはまだ続きそうだ。
ちょっと怖くなってきたけど……
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