第4話 初デート②
「怒ってる?」
「ほとんど私の自爆なので怒れません……」
なんとか復活できた
未だに少しだけ頬が赤い珠唯さんだけど、大丈夫なのだろうか。
「そういえば聞いてなかったけど、今日って行きたいところあるの?」
今日は一緒に出かける約束はしたけど、どこに行くかは話していなかった。
きっと珠唯さんが行きたいところがあるから誘ってくれたのだと思っていたから、俺は特に何も考えていないし。
「決めてますよ。ちなみに
「デートスポットね。有名なとこだと水族館とか遊園地みたいなアミューズメントパークだよね」
「ですね。さすがにこの時間からは行かないですけど、行くってなったら一緒に行ってくれます?」
「まあ、あなたとなら?」
俺は人混みが嫌いだ。
だから水族館や遊園地は絶対に行こうとは思わない。
でも、珠唯さんと話していれば人混みとかを気にならないだろうから行ってもいいと思える。
「どしたの?」
「いえ、悠夜さんされたのに耐えてます」
珠唯さんが胸を押さえながら深呼吸していたので、心配で声をかけたが意味のわからない返事を返された。
「大丈夫ならいいけど」
「大丈夫ではないですけど、とりあえず続きです。他にデートスポットって思いつきます?」
「そうだなぁ……、普通に買い物みたいな?」
水族館や遊園地などは、何日も前から準備をして行くタイプのデートで、いきなり行きたくなったやつなら買い物が思いつく。
「まあそうですよね。ちなみにそれって付き合う前とか、付き合ってからどれぐらいみたいなのも言えます?」
「なんの尋問なの? えっと、水族館とかは付き合う前なら告白とか、仲を一気に近づけたい時で、付き合った後なら記念日とかかな? そんで買い物はそういう大きいデート以外?」
「ふむふむ」
珠唯さんが胸の前で両手を組みながら頭を上下に振っている。
そういうおもちゃみたいで可愛い。
「あ、ちなみに買い物って言うのは、服とかプレゼントみたいな、お互いの為の買い物ね? 食料の買い出しみたいなやつは、もっと親密か、同じ学校でお互いに名前ぐらいしか認知してないのに、なぜかお互い一人暮らしでお隣さんで、何かをきっかけに少し話すようになったけど、どっちかの生活能力が著しく低くてほっとけなくなったもう片方が料理をしてあげるようになるんだけど、貰う方が罪悪感が芽生えて『買い物ぐらいは』って言って、気づいたら一緒に買い物に行ってるようなやつだから」
「説明が長すぎてなんの話かわからなくなりました」
途中から気づいてはいたけど、オタク脳全開で話してしまった。
途中でやめるのもなんか嫌だったから止まらずに話したけど、嫌な顔せずに聞いてくれる珠唯さんはほんとにいい子だ。
「別にウザかったら言ってくれていいんだからね?」
「ウザイとかないですよ。むしろ悠夜さんの楽しそうに話す姿が見れて私は満足です!」
ほんとにいい子だ。
いい子だけど、スマホを開いて何を真剣に打ち込んでいるのか。
「俺の悪口でも書いてる?」
「そういうこと言うなら私と結婚しないといけない状況を作りますからね?」
「まるであなたとの結婚が罰みたいな言い方じゃん」
「くっ、メモじゃなくて録音しとけば良かった……」
珠唯さんが何かを呟いたけど、小声すぎて聞き取れなかった。
何かを悔しがっていたのはわかるけど。
「というか、なんでそう思うなら私と付き合ってくれないんですか!」
「人並みな意見だから好きじゃないんだけどさ、俺とあなたじゃ釣り合わないんだよ」
俺みたいな惰性で生きてるような人間関係と、人生に希望しかないキラキラした珠唯さんとでは人生の釣り合いが取れない。
珠唯さんには俺なんかよりもいい人が絶対にいると、そう思う気持ちが一番にくる。
「そう、ですよね。私なんかじゃ悠夜さんとは釣り合いませんよね……」
「そう、俺なんかじゃあなたと釣り合わないの。わかる? あなたみたいな男の理想の女の子は俺みたいな適当に生きてる男と付き合うのはもったいないでしょ」
「……ちょっと怒りました」
「なぜに?」
別に俺だって珠唯さんと一緒に居るのは嫌じゃない。
だけどそれが珠唯さんの為になるのかと言われたら多分ならない。
だから頑張って説明したのだけど、珠唯さんが立ち止まって俺の前に来て上目遣いで睨みつける。
「私は別に他の誰かに『見る目がない』とか言われるのはムッとしますけどいいんです。私からしたら悠夜さんの良さをわからない見る目のない人だって思えるから。ですけど、悠夜さんから言われるのは嫌です」
「見る目がないってよりかは、視野を広げようって話だよ。これから会う相手に俺よりもいいと思える人がいるかもって」
「私は手に入るかもわからない未来を求めるより、手の届く
珠唯さんがまっすぐ俺の目を見つめる。
俺達以外に人影はなく、車の走り去る音だけが耳に入ってくる。
「それでも俺はあなたと付き合うことはない。今のところはだけど」
「そうですよね。だから私も考えました。このデートもその一環ですけど、要は悠夜さんの考え方を変えればいいんですから」
「まあそうだけど」
「前は色々といっぱいいっぱいでわからなかったですけど、今回のことで決めました」
人の顔を見るのが苦手な俺が吸い込まれるほどの真剣な表情。
多分聞いたら駄目な気がするけど、珠唯さんの顔から目が、そして耳も離せなくなる。
「私は悠夜さんに、私の人生を壊してでも好きになってもらいます。その為ならどんなことでもするので」
「自分を大切にしなさいよ」
「私の幸せは悠夜さんがいないと成立しません」
「そんなキッパリと……。後悔しない?」
「しませんよ。未来に期待をしない私ですけど、それだけは保証します」
「なんで?」
未来に期待しないというのも初めて知ったことだけど、なんでこれは信じられるのか謎でしかない。
むしろ一番信用できないだろうに。
「だって悠夜さんが恋人を蔑ろにすることなんてあるわけないじゃないですか」
「何を根拠に」
「私と仲良くしてくれてるのが証拠です。悠夜さんは素直じゃないですけど、なんだかんだで私をいつも守ってくれますし、こうして私のわがままのデートだってしてくれます。そんな悠夜さんが恋人が愛想を尽かすようなことをするわけないんです。つまり私が悠夜さんと付き合ったら絶対に後悔するわけないです」
珠唯さん本人の体験談だからそうなのかもしれないけど、やっぱり俺にはわからない。
俺は別に珠唯さんを守ってないし、今のデート? だって珠唯さんと一緒にいるのが楽しい俺にも得があるからという打算がある。
「悠夜さんの自虐は多分簡単には直らないと思うので、私は頑張ります。とりあえず最初に……」
そう言うと、珠唯さんが俺の隣に戻って来た。
そして俺に左手を伸ばしてきて……戻す。
「悠夜さん、私の手を握ってください」
「くっ」
「あー、今笑いました! しかも押し殺すみたいに!」
「いや、頑張るって言ったのにいきなりひよったのが可愛くて」
「うぅ……、馬鹿にされてるのに『可愛い』って言われたのが嬉しい自分がいる……」
珠唯さんが緩んだ頬を両手でほぐしている。
それはそれで可愛いのだけど、もっと可愛くしてやろうと、左手を盗んでみた。
「ひゃ!」
「お望み通りにしてみたよ?」
「ふ、不意打ちは駄目なんです! それに、私の顔を触った後で、その……」
「何か問題あるの?」
「にゃいですよ!」
なぜか怒られたけど、噛んだのが恥ずかしかったのか、珠唯さんの耳が赤くなっている。
ほんとにいちいち可愛いことで。
「悠夜さんのばか。もう行きますよ!」
「俺が怒られるの理不尽では?」
そう言ってはみるけど、ご立腹の珠唯さんは無視である。
だけどさっきのこともあって、チラチラと俺のことを気にしている。
そういうところである。
そうしていつも珠唯さんを送っている道を通り、いつものコンビニまでやって来た。
だけど今日はそこで止まらず、そのまま進んだ。
そして珠唯さんが少し古めかしいアパートの前で立ち止まる。
「悠夜さん、お家デートをしましょう」
「仰せのままに」
こうして俺達の初デート? は珠唯さんの住むアパートになった。
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