第10話 逃亡1
「イホウ、コタイ、とハ」
「ハツ、逃げるぞ!」
詳しく尋ねようとするハツの腕を引いてソラは塔の外に飛び出した。店番をしていた機械人形たちが、サイレンの強い指示に誘われおぼつかない足取りで集まって来る。店番役の機械人形は走るように作られていない。
「これって捕まったらまずいやつだよなぁ。」
「そのようニ見えます。」
武器を持っているわけではないが、機械人形は人間よりも頑丈だ。それに追われては人間のソラはひとたまりも無い。狙われているのはそれなりに丈夫なハツだが、ハツも数で押し切られてはかなわないだろう。
「裏、回るぞ!」
倉庫の見張りはあまり設置されていない。あわよくばトラックを借りてやろうと、ソラはハツの手を引いた。
「ハツってなんかすごいみたいだな。」
「記憶ニありません。」
ハツはどこか腑に落ちない様子だった。自分過去が分かると思った直後のこの仕打ちだ。無理もないだろう。倉庫が並ぶ通りを走りながら名残惜しげに振り返る表情は、迷子の子どものようだ。
「“役目”ガ無ければ、私ハ……」
「手がかりにはなったじゃん。人間が造った、町のじゃない機械人形……30年以上前のは全部町に属してるはずだから、案外生まれたてかもよ。」
「誰ガ、私ヲ造ったノでしょうか。」
「誰だろうなぁ。……あ、トラックあった。ちょっと待ってて。」
大型トラックが数十台並ぶ駐車場を見渡し、もっとも古そうな機種を選んで乗り込む。駅からここまで来る際にこのトラックは無人だった。
つまり、今2人を追っている機械人形たちと同じように、遠隔からの信号とプログラムで動いているということだ。しかしこの町の機械人形たちを見た限り、古いものならば手動で動く可能性も──
「駄ァ目だ、動かね。」
緊急事態ということでロックがかけられたのかもしれない。
「ハツ、なんか乗れそうなトラック探してほしい。半分くらい壊れてそうなやつ。」
「承知しまし……ソラ。」
運転席から、真下で周囲を警戒するハツに指示を出す。その時、駐車場に機械人形たちが押し寄せてきた。歩みが遅いと油断していたが、町全体が敵となってしまっては逃げ場が無い。
「ハツ、こっち来い。」
「イイエ。ソラハまだ認識されていないため、別行動ヲ取るべきト判断しました。」
──ソラは逃げて。
懐かしい機械音声がよみがえる。
「ハツ!」
ハツを引き戻すため運転席から飛び降りた時、機械人形の1人がハツの頭を殴った。ハツの身体が力なく倒れる。
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