第9話 違法個体
塔の1階は外見から予想できたものと相違無く、殺風景な石造りだった。中央に立った検索用の機械人形が、薄暗い空間に立っている。機械人形は裏切らない。データは首都の塔にすべて共有され管理され、町に登録され個体番号を持つ機械人形であれば大抵の施設に出入りできる。
故に機械人形のみが住まう町のセキュリティはあって無いようなものである。町の機械人形であれば。
「こんにちはぁ。」
「ゴ用件ハ。」
その機械人形には髪が無く、恐らく関節の傷みを隠すためにドレス型の給仕服を着せられていた。塔の人形も首都ほどの性能は持っていない。南の町は農作の町だから、高性能のものをあてがう必要が無いのかもしれないが。
ともかく、この町で必要以上に警戒する必要は無さそうだ。
「個体番号S‐2525を探してるんだけど位置情報の確認できるかな。」
「承知イタシマシタ。……首都ノ“一般住民”。現在モ稼働中。以上。」
稼働中。そんなデータがあえて表示されることはない。ソラが眉をひそめる。
「……続きは?」
「S-2525ハ現在、首都ノ──」
機械音声に雑音が混じった。
「──S-2525ニツイテの情報ハアリマセン。」
ビーッと警告音が鳴る。
「……え?」
まるで消し残しのような、今急いで消去されたような、不自然に中途半端な情報。ソラはその意味を少し考えて、
「じゃあ、いいや。番号間違えたかな。」
問題を起こさないよう努めることにした。
「あとこの子が心臓落としたから探して欲しいんだ。」
「個体番号ヲ入力シテクダサイ。」
だよな、とソラがハツを振り返った。ハツは自分の個体番号を含む全ての記憶を、心臓と共に失っている。燃料を得てどういう訳か血色はよくなったが、記憶が戻ることは無かった。
「この子、心臓にメモリーが入ってたみたいで個体番号も忘れちゃったんだ。」
「コチラデ調査デキマス。」
「だって。やってもらう?」
「ハイ。よろしくお願いします。」
機械人形に促されるまま、ハツはそれと額を合わせ視線を重ねた。心臓が見つかれば記憶が戻るかもしれない。記憶が戻れば自分の“役目”が分かる。だからハツはこの件についてはためらわない。瞳から情報を読み取らせて数秒後、今度こそ本格的に警告音が鳴った。
「違法個体。違法個体。違法個体──」
「まじか。」
町全体に爆音のサイレンが響く。首都の駅で聞いたものより少々かさついてひび割れた音で、それが一層不快感を煽った。
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