第7話 南の町
畑ばかりの景色が終わり店や家が並ぶ通りに差し掛かったので、ソラとハツはトラックを降りた。機械人形が住む家は水回りが使われていなかったり、ベッドや椅子が必要無かったりするため、人間が暮らせない状態のものが多い。そしてその割に塵一つ汚れ一つ無いほど綺麗に掃除されており、極端なものになるとドアが壊れているのに掃除はされているということもある。
「改めて見ると変だよなぁ。何が変かって言うと何がって感じなんだけど。」
石畳みの大通りには出店や飲食店、雑貨屋が立ち並んでおり、客の機械人形たちが商品を物色している。しかし雑談らしき雑談は無く、密度の割に活気は感じられない。「1ツクダサイ」「カシコマリマシタ」といったお決まりのやり取りがそこかしこで繰り返されている。しかし機械人形のそういった空気に慣れているソラは、店を片っ端から物色し串焼きやらジュースを受け取り頬張っていた。
「そノ行動ハ良いのですか。」
「ん? ああ、金の心配? 人間と違って通貨は無いんだよ。……ってハツに言ってもびっくりしてくれないかぁ。」
じっちゃんたちにはいいネタになったんだけどなぁ、とぼやくソラを無視してハツが続ける。
「今ノソラハ『住人ですって顔』ヲしていないト判断しました。」
ソラの肩がぎくりと跳ねる。
「だって人間エネルギー補給が必須なんだもーん。ハツも同じだろ?」
それにこの町の機械人形はあらかじめ決められたプログラム通りに動いているだけ、ということを機械人形であるハツに言うのはためらわれた。
ここの機械人形に道を訊いても商品を押し付けられるだけだろう。そういった機械人形はソラの人間じみた行動を気に留めず、ソラもまた会話の成り立たない機械人形に興味は無い。
「ほらあそこ、燃料ドリンクある。補給しといた方が良くない?」
話を逸らそうと、燃料をカップに入れて売る屋台にハツを押し出す。もうすぐ日が暮れる。現在ハツが動力源にしている太陽光が消えれば、明日の朝まで動けないだろう。自覚があるのか、ハツは促されえるままに燃料を1杯受け取って戻ってきた。
「貰って来ました。」
「かんぱーい。」
カップにオレンジジュースをぶつけられたハツが、不思議そうに2つのカップを見比べる。そしてしばらく考えてから同じようにカップを当て返した。
「カンパ、イ。」
「うん!」
粘り気のある黒い液体を1口飲んで、ハツが目を見開いた。燃料の補給は初めてだったのだ。味覚は無くとも、底をつきかけていたエネルギーが満たされる感覚は分かるらしい。一気に飲み干し再び同じ屋台でおかわりを貰って来た。
「なっ? こうやって外で食べるのが一番沁みる……おいしいよなぁ。」
「オイシイ、ガ分かりました。ソラヲ止めません。」
またからになったカップを持って屋台に並ぼうとするハツを、今度はソラが止める。
「待てハツ。こんなに店があるのに一か所で満腹は惜しいだろ。……制覇するぞ。」
「セイハ。賛成します。」
「よっしゃやるぞー。」
おー、と突き上げられたソラの拳に、ハツがからのカップでカンパイした。
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