第38話

 彼女の首が落ちる。分かっていてもそれは酷くスローモーションのように見えた。ゆっくりと時間が流れ、地面に着く。


『ありがとう』


 最期に目が合い、そんな声が聞こえた気がした。


 途端にサルサの身体から大量の蔦が伸びる。それは瞬く間にこの部屋全体、領主邸、更にはこの都市全体へと広がっていった。僕は蔦に優しく包まれ、その中で意識を無くしてしまった。


 _________


 僕は蔦に囲まれた空間で目を覚ます。怪我はもうすっかり治っており、目もよく見える。さて、ここからどうしようかと考えていると蔦が動き通路を作り始めた。誘導されるがままに進むとサルサの身に付けていたナイフフォルダーなどの装飾品が丁寧に置かれている。


 それを見た途端、ついにこらえきれずに僕は泣き出してしまう。


「サルサ……さるさぁ……」

 と僕は嗚咽混じりの声で呟く。


 するとそれに呼応するかのように、部屋の隅で何かが動く音がしたのでそちらに目を向けると、そこには一輪の蕾があったのだ。


 その蕾はやがて僕の目の前へと伸び、ゆっくりと開花していく。すると中からとても綺麗でエメラルドブルーに光る石が姿を現した。


「サルサの瞳の色だ………」


 僕は涙を拭き取り、それを手に取る。


『シオ』

 と彼女の声が聞こえた気がした。


「……ありがとうサルサ。」

 そしてまた少し泣いたあと、それを額に当てる。


「……愛してるよサルサ」

 と僕は小さく呟く。そして少し休んで、また泣いて、立ち上がり、それでもやっぱり涙は止まらなくて。


 蔦が僕の涙を絡めとる。それはとても暖かくて、僕は自然と笑顔になった。その蔦に触れると彼女の温もりを感じることが出来るような気がした。


「じゃあ行くよ」

 と僕は言う。


『分かった』

 彼女からそう聞こえた気がして、僕は歩き出す。


 蔦が作ってくれた階段を登るとやがて外に出ることができた。そこからはスリムリンが一望でき、都市は未然の大災害に混乱しているようだった。後ろでは蔦が大きな花を咲かせている。


「さて、どうしようかな。」


 すると突然僕の前に一羽の鳥が飛んできた。それは綺麗な栗色の羽毛にエメラルドブルーの瞳を持つ美しい鳥だった。


「慰めてくれるの?」

 と僕が言うとその鷹は


「クー!」

 と鳴き、どこかへと飛んで行ってしまった。


「ふふっ、ありがとうサルサ。またね。」


 僕はそう呟き、歩き出した。


___________


「良かったぁ!!良かった!シエル!!」


「お父様!お母様!!!」


 どうやら親子が再会を喜んでいるようだ。


 この娘はとある悪徳貴族に囚われていたらしいが、領主邸で謎の巨大生物が暴れ出し、何故かその生物により安全な場所へと送られたらしい。


 彼女の名はシエル。両親の名はウェスダブルとエルと言う。


「お父様!お母様!見て、あの鳥とても綺麗よ?」


 三人の再会を祝うかのようにエメラルドブルーの瞳を輝かせながら鳥が飛んでいる。


「あら、こっちに来るわね。」


 その鳥は三人を見つけると途端に方向を変え、とてつもないスピードでウェスダブル左目を抉ったのだった。

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