第20話 ゆめまくら

「やぁ」


 目の前に僕がいる。

 違う僕が僕だ。

 あれ?何を言っているんだ僕は。


 でも本当に目の前に僕がいるのだ。


「やぁ僕、郡士皇。そうだな〜面倒くさいから適当に呼ぶから君も僕のことは適当に呼んでくれ。」


 今気付いた。

 目の前にいるのは転生前の僕だ。

 よく見れば制服を着ているし髪型もそうだ。


「ようこそ!魂の霊廟へ!」


 何を言っているのかさっぱり分からない。


「人嫌いでおバカのシオ君のために分かりやすく説明してあげようじゃないか。ここは魂の霊廟と呼ばれる異空間。魔法使いに与えられる特別な場所だ。どうだい?心躍るだろう?」


 こいつがそう言った途端真っ白だった世界が一変した。

 そこは宇宙。

 クレーターだらけの地面、漆黒の空にはいくつも星が浮かんでいる。

 それも星というにはあまりにも近く、表面がハッキリと見える。

 手を伸ばしたら掴めそうな程だ。


 僕は唖然としてしまい、何も言えないままこの光景を見つめていた。

 僕から少し離れた所では例の男が得意げな顔をしている。

 そしてまた得意げに説明をし始めた。


「またまた困惑顔!まあね?君は僕なので疑問は分かるよ?なぜ今ここにいるのかだって?その顔に書いてあるよ?」


「いいかい?死が、死への恐怖こそが魔法使いを強くするんだ。そして知っていくのだ。己がことを。魔法のことを。世界のことを!死を強く感じた魔法使いはここへと招待される。あれだ、世界の仕組みってやつだ。」


「なんちゃって、まぁこんなもんでいいでしょ。」


 こいつ永遠に1人で喋り続けるな。


「にしても君、死にたいのか生きたいのかどっちかハッキリしたらどうなんだい?あ、おい。顔を背けるな、こっちを向けこっちを。」


「なんだよさっきのは。なーにが抱きしめて〜だよ。少し危なかったとはいえ君、分かってるんだろ?もうこのくらいじゃ自分は死なないって。それなのに彼女の愛を確かめようなんて、君最低だよ?分かってる?」


「いやだって、本当にあの時僕は死んでもいいって思えるくらい幸せだったんだ。」


「はい出たー、口癖の『いやだって〜』」


 こいついちいち癇に障るな。


「こんの死にたがりがァ。僕がワザと言ってるんだから癇に障るのは当たり前だろぉ?

 ………………分かるよ?僕が人生で初めて一緒に居たいって思わせてくれた人だ。もし裏切られでもしたら…君は大丈夫って言うだろうけどどうせろくな事ならない。」


「あ、まだ言いたいことあるんだった。あのねぇ君……」


「本当にガキ!行動がガキ!確かにさぁ僕の元いた世界じゃ16なんて子供だけどさ、こっちじゃ15で成人なんだぜ?僕は人に甘える時間が無かったからさ、今すぐに大人になれとは言わない。けどさぁ?いやあのマジでもうちょっとマシになってくれよ!見てる僕が恥ずかしいんだよ全く!!」


「いい加減その悲劇の主人公振るのはやめろつってんの!確かに前世ならそう振る舞ったって誰も責めやしない。そう言える環境だったからね。」


「でも今は違うだろぉ?恵まれた力に優しい人たち。こんなにも愛してくれる人がいっぱい居るのに何で分かってない振りをする?この世界基準で考えたら君の周りは人が出来すぎてるくらいだよ?昔みたいに君を殴ったり売る親も、それに見て見ぬ振りをする大人ももう居ないんだ。考えてもみなよ、今回君は悲惨な暴力に遭ったわけだけどさ、それを皆が聞いたらどう動くと思う?」


「うん……きっと僕のために怒ってくれる………こんな僕のために……」


「はいー!それ禁止!『こんな〜』禁止!!!そろそろその低すぎる自己肯定感ウザいからね?さっきも言ったろ?悲劇の主人公振るのはやめろって。あ、おいまた顔を逸らすなこっち向け!」


「はい!リピートアフターミー!僕は愛されています!!!」


 手拍子を叩きながら僕が僕に復唱を強制してくる。


「……………」


「言わないと一生ここから現実に戻さないぞ。」


「……僕は…愛されて…います………」


「はいもっと大きな声で!僕は愛されています!」


「僕は……愛されています……」


「もーっと大きな声で!僕は愛されています!!!!」


「僕は愛されています!!」


「はいそれでよろしい!」


 このあと僕はサルサやシャノ、ヴェーラにシュテン、ギルドの受付嬢であるエリサさんやよくおまけをくれる屋台のおじさんに至るまでありとあらゆる人物に対して愛の言葉を叫ばせられた。


「僕はあの時治したエイルが好きです!はい復唱!!」


「僕はエイルが………誰それ?」


「あのブルースパイダーの子。」


「いたねぇ〜そんな子。」


 中には1度しか会ったことのない患者も含まれていた。

 こいつは僕がひたすら愛の言葉をいらされている横でよく分からない情報を吐き続ける。


「実はシャノは君みたいな弟分ができて凄く嬉しかったんだ。さっきだってラスラトを止めるために頑張ってたんだよ?ちゃんと弔ってあげてね。借金はどんまい。」


「シュテンの旦那は出ていったすぐに死んだ息子に君を重ねているんだ。」


「ヴェーラは優秀な神官だったけど上に反抗しすぎたんだ。あと普通に神官見習い(12)に手出したよ。実は君が会った中で1番ぶっ飛んでるのはコイツ。」


「屋台のトーレスさんはギャンブルで妻と子に逃げられてるよ。」


「エリサさんは君に女物の服を着せたいと思ってるよ。あまり近づかないようにね。」


「あの時君が治したあの冒険者は君に性癖を破壊されて男娼通いになってるよ。」


「君が以前引っ掛けて以来勧誘してくる女冒険者、彼女はサルサが君の弱みを握って働かせてると思っているよ。」


 いつも通りで酒を売ってる彼は――――――――


 もう何時間喋ったかは分からない。

 それに勝手に秘密をバラされる人達があまりにも可哀想でならない。

 できるだけ僕は聞かないように、頭に残さないように愛の言葉を叫び続けた。

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