第3話 異世界というものは

 宿を出て空を見上げるといつものように小雪がチラついている。


 季節は冬、炎の魔石やら薪やら小麦やら。

 何かと物入りな季節だ。


 僕の名はシオ。


 闇医者もどきをしている。


 この剣と魔法の異世界『ヴェスペロ』に放り出されてからはや3ヶ月が経とうとしている。


___________


「ちっすシオ、今日はやべぇくらい寒いな」


 僕の後ろで周りを警戒しながら歩くのはシャノ、僕と歳は近いが腕が立つチンピラ。スラムのマフィアであるラスラトが僕に付けてくれた用心棒だ。そして僕がこの世界で2番目に治した人間でもある。10代で酒と女とギャンブルに溺れる、馬鹿だけど気さくで良い奴だ。


 あ、ちなみに治したのは梅毒ね。死にかけのコイツを治すことで僕は信用を得ることができた。多分来月にはまた僕に金を落としていってくれるだろう。


「シュテンの旦那、今日急患はいるかい?それか良い金ヅルでもいいよ?」


 ここで言う急患は飲み潰れた酔っ払い。勝手に治して懐から金をスる。正直片手間だし二日酔い程度だからスるのは現代でいえば数百円程度。ガキ2人に奢るだけで二日酔いが綺麗さっぱり無くなるのだ、安いもんだろう。

 別に金が無くてもシュテンの旦那に頼まれれば治すけどね。

 ちなみに金ヅルは貴族の依頼人のことだ。表では公言しづらい病気をここに治しにくる。そういう相手にはちょっとずつ治していきむしり取るのが常套手段だ。


「おぅ、シオか。そうだな、今日は特にいねぇな。しいて言うならお前のツラが見てて寒い。」


「そいつは悪かったね。じゃあまた来るよ!」


「おう!また良い女でも引っ掛けてこいよ!」


 そんな会話を交わして僕は闇医者もどきを生業としている酒場『アセスタ』を後にしようとしたときだった。


「待てシオ、あぁそうだったそうだった。依頼って訳じゃねえんだがな」


「なになに、それって金になる?」


「探し人ってやつだ。あー、確か名前はシオと言ったかな、この辺で医者をしてるらしい。」


「………」


「サルサがブチ切れてたぞ、お前何やらかしたんだ。」


「シャノ、悪いけど僕また潜るからよろしく。」


 ここで言う潜るとはこの都市スリムリンの西部にあるダンジョンのことだ。現在52階層まで探索がされており僕たち人間やその他の種族が生きるためのありとあらゆる物品が採掘される。それは魔石に始まり食料や古代の魔道具など様々だ。ちなみに僕以外の人間はこのダンジョンに対し誰も疑問を持たない。明らかに何らかの意思が働いているのだろう。それは神かはたまた………


 だが僕は気にしない。そんなものに首を突っ込んだらきっと命がいくつあっても足りないだろう。そんな予感がするのだ。


 僕の名はシオ。


 明日をも知れぬ探索s「そうは問屋が卸さねぇぜシオ」


 おかしいな……僕逃げ足はまあまあなはずなんだけど……

 


 目の前にはスキンヘッドの大男がいた。

 身長は210cmはあるだろうか、筋骨隆々という形容がよく似合う大男だ。

 その男は僕の肩を掴み逃さないようにしている。この手を振りほどくことは簡単だけどそれをすると面倒臭いことになりそうな気がしたので大人しくすることにした。


 彼の名はラスラト、このスラムを暴力で治める僕の雇い主だ。


「それで?なんで親分ラスラトがこんなところに……」


「そりゃあ仕事だからだ。で、お前さんの仕事はなんだ?」


「えっと……闇医者ですかね?」


「そうだろ?俺様はお前さんの雇い主だ。俺はお前に好待遇を与え更には給料を払っている。そしてお前は嬉しいことにその給料に見合った働きをしている。」


「はい!」


「喜んでんじゃねぇよぶっ殺すぞ。」


「はい……」


「お前さんがサボった分だけアイツらの復帰が遅れ俺様を苛立たせる。わかるか?」


「はい……」


「なら話は早い、早速行くぞ」


「へっ!?ちょ、ちょっと待ってください!まだ心の準備が!」


「うるせぇ!早くしやがれ!」


 僕は首根っこを掴まれズルズル引きずられる形で連れて行かれた。

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