帝国行きの片道

 たらふくご飯を食べて一休みしていると、あの赤い雲の間を掻き分けて何かがふわふわと着陸した。

「よぅし来たぞ」

 ライムは荷物をテキパキまとめて、あっという間に小さなカバンひとつになった。

 カラスマも自分のカバンを手に取った。

 着陸したその機体は、楕円形の機体だった。

 さっきまで壁だった一部が切り離されたと思うと、地面にごつんと当たり階段になる。

「さあ、行こうか」

 二人はライムに着いて、階段を上がる。

 一番後ろを歩いていたカラスマは振り返り、自分達の乗っていた船をぼおっと見た。なんだか悲しくなって、振り返るのをやめた。

 船内は見た目よりも広く、ソファや冷蔵庫まで付いていた。

 窓に向かって座っている、繋ぎを着た男。

「この子達、月に向かってるらしいんだ。アズワルの銀間列車に連れて行ってたいんだが」

 ライムがそう言うと、男は振り返って立ち上がる。彼は、ライムとは違い、普通の身長のようだ。

「月に、この子供たちが?」

「ああ。そうだ」

「それは、しかし……」

 男は口篭る。三人は不思議がる、そして、男はライムに耳打ちした。

「俺は月に行くのは御免だ」

「だが、彼らが行きたいと言っているんだ。僕らは困り人の手助けすれど、邪魔するようなことは出来んよ。それに、帝国に連れていくのはどうだ?」

「……お前がそう言うなら、分かった」

 ぼそぼそと、二人には聞こえていなかったらしい。

 カラスマたちは余計に不思議がって、しかし先にライムが口を開いた。

「残念ながら、君たちを月に連れていくことは出来ない。しかし、代わりに月に行ける場所に案内するよ」

「月に行ける場所?」

 首を傾げるカラスマたちに、ライムは、窓の外を指さして言う。

「あそこにある星が見えるかい?」

 気づくとうさぎの星から抜け出して宇宙に来ていた。ライムが指す先にある、ひとつの光。

「あそこには国があってね。そこは月へ行くための道のりなんだよ。私たちがあそこまで連れていくよ」

 マリアは不安がる、しかし、カラスマは目を光らた。

「ありがとう、ありがとう、やった、バンザイ」

 狭い船内をはしゃぎ、しかし「飛びまわんな」ピシャリと男に注意された。

 ふと窓の外を見ると、カラスマの目は反射で真っ赤に染まる。

 ああ、こんなにも赤かったんだなぁ、と感心して、うさぎを撫でた感触がまだ残っていた。

 寂しいと思う反面、次はどんな出会いがあるのか。

 それはまだ、分からない。

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