追突
宇宙はひろく、まるで宝石箱をひっくり返したかのような瞬きらめきである。
その中でもとりわけ真珠のような月は、段々と、しかし確実に大きくなっていた。
しかし奇妙だ。先程から、コツン、コツンとなにか当たる音が絶え間なく一定に続いている。カラスマはすこし丸くボコッと膨れたガラスから船の外側を観察する。
すると、カラスマは驚いて腰を抜かしてしまった。なんと、触手のような生き物がこびりついているではないか。
「大変だ、これは、大発見になるかも知らん」
カラスマは出発の前、マリアを誘いに行く前に、一度家へ帰っていた。
そのとき、役に立ちそううなものはすべてカバンに詰め込んできていた。そのうちの一つが、その写真機である。これは、異端審問会に連れていかれたカラスマの父親が使っていたものだった。カラスマが幼い頃は、よく海に連れてってもらったものだった。
カバンから写真機を取り出すと、その薄紫色をしたなんとも気味の悪いタコの足のような触手をぱしゃりとレンズに収めようとする。
「これは、国からお金ももらえるくらいすごいんじゃないか」
「だめよ、異端審問に捕まったら、二度と、出てこられないわ」
マリアの目は疲れ切っていて、すこし寝るわと、目を閉じた。ガラスの反射と丸い角度から、カラスマが苦戦していると、タコはコツン。コツン。と音が次第にとぎれとぎれになって、最後には消えてしまった。
ああ、写真に収めることが出来なかった。
ゴウンゴウンとエンジン音が重く響く船内は、もはやマリアの鼻息とエンジン音しか音がしなかった。
宇宙は静かなんだなぁ。
地上では、この時間帯は隣の家のマーシャルばあさんが薪割りをしているだろう。家でもお母さんが花に水をやったり、掃除をしているだろう。
今頃僕は本当は、学校からの帰り道をてくてく歩いているんだろう。
ゴウンゴウンとエンジンは唸る。
カラスマの喉が欠伸を頻繁にするようになったその時、突然いつだかのようにピピピとアラームが鳴り始めたのだ。
がっしゃん。
船が大きく揺れた。
アラームは飽きること無く響いている。
「なんなのよう、なんなのよう」
マリアが目を白黒させて慌てふためいている。
船は不安定に回り始める。だんだん遠心力だか向心力だかの力を感じて、心臓が激しく脈打った。
「あれは、X国の印だよ!」
ぐるぐると回る窓の外にいるのはカラスマ達が乗っている機体とは大きさも形も違う、別の宇宙船だった。機体の横には大きなマークが書いてある。
「そんな事よりこの船を何とかしないと!」
マリアの言葉にハッとしたカラスマは操縦桿を手荒に揺らすが、何も変わった様子はなかった。
段々と、X国の船が遠くに行ってしまう。
いや違うんだ。僕達が離れていっているんだ。
そして、月もまた、遠くに離れていってしまった。
「何とかしてよぉ、このままじゃ私頭がどうにかなってしまいそうよ」
「うぅぅん!」
操縦桿を縦に横に斜めに揺さぶる。
全然何ともならない。
カラスマの心臓は更に早く大きく動く。
そして、端からどんどんボタンを押していった。もしかしたら、何か起こるかもしれない。
何語かで書かれていて、なんのボタンだか分からないけれど、それでも今は押すしか無かったのだ。
そして、特段大きい真っ赤なボタンを押し込むと、ブシュッ、と空気の抜けたような音がした。
その直後、ゴウンゴウンと唸っていたエンジンは止まり、そして瞬間、ボフッと急発進していった。
あまりの速さに、二人は頭の血が引いて気が遠くなった。
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