グレゴリオ3010
カラスマは宇宙に行った。ついに、空へのあこがれを断ち切らねばならない世界と決別したのだ。
男が言っていた山に入ると、プレートが赤色にピッカリ光って場所を照らした。その茂みに隠された大きな鉄の塊は、錆び付いていても、いっそう凄みが増しているのだった。
カラスマはハッチに手をかけると、すんなりとハッチは開いた。
きっと、僕に乗れと言っているんだな。カラスマは機体に乗り込んだ。
「ねえ、やめようよ、家に帰ろうよ」
数少ない友達のマリアをカラスマは誘い、ここまでついてきたが、マリアは乗るのを嫌がった。
「いいじゃないか。僕は月に行けるならなんだってするさ」
「でもお、お母さんが家で待ってるわ」
カラスマは母親を溺愛していたが、しかし、それは月への好奇心にまさるものではなかった。
「いいや、僕は行くよ。男たるもの、冒険心を忘れてはいけないんだ。それに、帰ってくれば問題はないじゃないか」
「そうだけど」
渋るマリアに、しびれを切らしたカラスマは「じゃあ僕一人で行くから、怖いなら君は家へ帰りなよ」といってハッチを閉めようとした。マリアは顔を赤くして、「怖くないわ」と手でハッチを抑えて乗り込んできた。
少年は家にあった本でなんども読んだ機械が目の前にある事に高揚した。覚えている通りにボタンやレバーをガッチャンガッチャンと動かす。
船の電源がついた。
何を言っているのか分からなかったけれど、世界標準の数字で秒読みを始めて、二人はいよいよ空へと飛び立つのだと気がついた。
発進五秒前になると、マリアの赤かった顔が青くなる。
「ねぇえ、これは本当に、帰れるのかしら。まるで銀河鉄道のようよ」
そんなことを言っていると機体は浮き上がる。そうして、そのまま空に向かって一直線に登り始めた。
「すごいや、これが飛ぶということなのか」
マリアとはかけ離れて心躍らせるカラスマだが、そんな時にピピピとアラームが鳴り響く。
遠くからものすごい勢いで飛んでくる、それはミサイルだった。C国とA国が戦争を始めて、J国も巻き込まれていると新聞で読んだことがあった。その対空ミサイルが、なぜか街に飛んでいるのだ。
「この国では、偉い人に許された人以外は空を飛んではいけないの。この船を、止めようとしているんじゃない?」
やっぱり降りましょうよと、マリアが泣きながら訴える。しかし、船は段々と加速し、すぐミサイルよりも早く、高く飛んだ。
「なあんだ、へっちゃらじゃないか。このまま月まで行けるぞ」
船の壁に映し出された光る文字。2113〜3010と書かれていた。
「これは、なんの数字だろう」
カラスマはマリアに聞く。
「高さじゃないのかしら?」
まだそこまで高いようにも思えないけれど、それにしても数字以外、全く文字が読めない二人は、そういうことにしておいた。
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