俳句とエッセイ 2024 八月

石塊

泥長靴脱ぎ軍足も脱ぎ端居

季語 端居 (夏・生活)

縁側など家の端で風にあたって涼むこと。

主に夕方や夜の情景として。



縁側に腰掛けて涼をとるような生活は、遠い昔のことだ。


今の住まいに縁側はない。ベランダはあるけれど、地上と隔絶された空間では、ちょっと風情が違う。何より気候変動の影響で、暑くて夜風にあたって涼むどころじゃない日が多くなってしまった。


実家で過ごした日々は違った。標高500mの山間部では、山や湖を越えてやってくる風は涼しく、日中でも日陰にさえ居れば、暑さを避けられた。


住んでいた家も築200年にもなる古民家で、四方の戸をからりと開け放っておけば、ときどき扇風機を回す程度で充分だった。


畑で農作業を手伝って帰ると、冷たい麦茶か三ツ矢サイダーが待っていた。水道の水も山から湧いてきた沢水を少し消毒した程度のもので、冷たくて美味しい。長靴の中で火照った足をだらんと縁側へなげだすと、半ズボンからはみ出た脚が、板敷きの床と家の中に吹き込む風とに触れて、ひんやりと心地いい。そこで味わう一服の清涼というのは、格別だったように思う。


歳をとって家を守るものがいなくなったとき、そこでの生活が再び始まるかもしれない。でもそんな遠い未来のことはまだ分からないし、考えるのも億劫だったりする。


まだ支払いが始まったばかりの住宅ローンと憂鬱を重苦しく抱えながら、茹だるような猛暑の夏を、私はしばらくここで過ごしていく。


泥長靴脱ぎ軍足も脱ぎ端居


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