溶けない砂糖とリンクして
ふわふわくまは、いつも妄想をしている
砂糖とリンクして
「あまっ!」
紅茶を口にふくんだ瞬間、舌にまとわりつくような甘みを感じた。角砂糖を五個も入れているような甘みだ。口の中でジャリッという感触が残る。
「どう?これで目、覚めた?」
クククと忍び笑いをこぼして、紅茶をいれた本人が言った。
「そんなに気にすることないって。いつものようにしてればいいじゃん」
目の前でさらに砂糖を追加し、ティースプーンで混ぜている。
血糖値、上がるって。
少し面白いことに侵されていた頭の中で、またさっきの考えが膨らみだす。
「いや、でも」
紅茶のカップを少し勢いよくおいてしまった。机の周りにビチャッとこぼれる。
口から流れ出しては、何度も胸にたまる思いを投げようとした。
またさっきの思いを話そうとした時、彼女は私の口の前で、人差し指を立てた。
「だから、落ち着いてって。大丈夫だよ」
★
遡ること、一か月前。
美雨は学校の掲示板とにらめっこをしていた。あまりにも真剣な瞳で。
「みーうっ!」
肩に手を着地させ、驚かせることに成功。
彼女は肩を激しく震わせた。
しかし、こちらを振り向いた顔には、今までに見たことがない顔だった。
あまりにも怖すぎる顔で、反射的に体がのけぞってしまう。
「美雨?どうした?」
ウチは美雨の顔を見て、心配になる。
「あの、さ。これに応募しようと思うんだけど」
プルプル震える人差し指の方向は、ある一枚のポスターだった。
そこには、『カクヨム甲子園』と書かれていた。
「これに興味があるの?」
ウチは美雨の顔覗く。あまりにも、悩みに悩んでいる顔だった。
「うん」
いつもと違う、こもった音。
「何かこれに困っているの?」
返事が返ってこない。
「黙ってないで、ウチに相談してよ!」
急に発した声に驚いたのか、肩ビクッと振るわせると、ウチの顔を恐る恐る見た。
「そんな、相談するほどのものでもないし」
美雨は目線を伏せた。
長い前髪が目にかかり、暗い雰囲気をまとわせる。
「くだらない相談でもいいから、聞こうか?」
そう言った間も無く、美雨はウチの腕を引っ張り出し、どこかに連れ出した。
★
連れ出したところは空き教室。
使われていない机や椅子が山のように積まれているところだ。
美雨は椅子を山から取り出し、ちょこんと座る。
ウチは近くにあった机に上って座った。
「わたし、さ」
「うん」
それから少しの無の時間が続いた。ウチがしゃべりかけた方がいいのかわからず、戸惑ってしまう。そんな時間を打ち破ったのは、美雨だった。
「私、さっきのコンクールに、出ようと思ってるの」
「うん」
「短編の小説を出したいなって思っているんだけれど、書けない気がして」
「というと?」
「私、本とかたくさん読まないタイプって知ってるでしょ?普段から妄想するのは好きなんだけど、それをいざ文字に起こすとなると、うまく書けない気がして」
その話を聞いて、黙ってうなづく。
「なんていうか、私が思い描いている物語をさ、ほかの人に共有できる気がしなくて。小説って、誰もがどこにいても、旅をできるものでしょ?でも私には、そんな作品を作れないって、思ってて」
ウチは勝手に、美雨の肩をつかんだ。
今まで使っていない力を込めて。
「なんで勝手にそう思うの?美雨が自分勝手に決めつけないでよっ!」
ウチの手はガタガタと震えていて、知らない間に、涙がこぼれていた。
「ウチは今まで、美雨の書いた物語、たくさん、読んだよ。読んだ度に、感想を伝えたじゃん!ウチが話した感想は、すべて本物の気持ちなんだよ。だから、いつも通りに、作品書いてほしい」
その言葉を投げかけたとたん、美雨の肩が震えた。
ウチはビビッて手を放す。
そのとたん、美雨は顔を手で覆って思い切り泣き出した。
ウチの気持ちが、伝わったのかな。
★
私は早速、書き上げた作品を胸に抱えた。
あの日から、私は伝えたいことを文字に起こした。
もし彼女の言葉が無ければ、この作品が存在していなかっただろうし、彼女の気持ちを知ることが出来なかっただろう。
でも今は、彼女の思いが私の背中を押してくれた。
コンテストに出す前に、彼女に見せたい。
自信を持たせてくれた、信奈乃に。
溶けない砂糖とリンクして ふわふわくまは、いつも妄想をしている @0510kumahuwahuwakuma
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