黄昏days ─僕を視たのは君だけ─

夜月 透

第1話 落ちる僕と止まった君。


太陽が沈み始めて薄暗くなってきた、夏の日。


風が吹いてもまだ涼しさの感じない、じんわりと蒸した外の歩道橋の上で、僕は手すりに手を掛けたまま景色をボーッと眺めていた。


ああ…学校行きたくないなぁ。とか、明日なんて来なければいいのに。とか、他愛も無い事を考えて時間が過ぎていく。


ただただ、ボーッと立ったまま景色を眺めていると、突然横から女の子に話し掛けられた。


「こんにちは。貴方は高校生?」


声のする方に目を向けると、そこには僕と同じくらいの制服を着た若い女の子が立っていた。


肩に付く位の茶色の髪が風でなびいてしまう様で、耳に掛けながら頑張って髪型を直している。


彼女は手すりに触れながら、僕に微笑みかけて答えが来るのを待っている。


僕が黙ってうなづくと、彼女は嬉しそうに笑って「私と一緒だ」と言った。


全然一緒じゃないけどな…と内心僕は思った。


同じ高校生でも、僕は陰気だし口下手だし。


対して彼女は、黄昏時のこの薄暗い時間なのにも関わらず、笑顔が眩しくて活発な可愛らしい女の子に見える。


何で僕に話し掛けてきたんだろうか…。


彼女の事を僕は見た事もないし、全く知らない赤の他人なのに。


不思議で仕方が無かった。



僕が手すりに手を掛けよじ登ると、彼女は続けて僕に問い掛けてきた。


「私の名前、みのりって言うの。貴方の名前は何て言うの?」


僕が歩道橋の手すりによじ登っても、手すりを乗り越えても、みのりは表情も変えずに平然と聞いてくる。


本当に不思議な子だな…。


振り返りながら彼女を見ると、彼女は真っ直ぐ僕を見ていた。



「僕の名前は──」


僕は彼女に名前を教える事無く、歩道橋からそのまま飛び降りた。



▶▶▶



翌日の薄暗い歩道橋の上で、また気付いたら僕の隣にみのりが立っていた。


じんわりと暑い夏の日にも関わらず、彼女は帽子や冷感対策もせずに僕を待っていた様だった。



何で今日も居るの?と不思議で堪らなかったが、…かなりの物好きか、もしくは変人か。



「ねぇ、…貴方の名前が知りたかったの」


懐いた猫が擦り寄る様に、彼女は僕に詰め寄ってきた。


やっぱり僕の予想通り、物好きな変人だったみたいだ。


「ねぇ、無視しないでよ」


「…かける


観念したように僕が名前を教えると、


かける君か…!良い名前だね」


彼女は笑ってそう言った。


僕が歩道橋の外の景色をボーッと眺めていようが関係なしに、みのりは次々に話題を変えて話し掛けてくる。


何処の高校に通っているか。とか、好きな食べ物は何か。とか、そんな誰も興味が無い様な事も嬉しそうに聞いてくるから驚きだ。


僕の何がそんなに気になっているのか…?


っていうか…。

昨日彼女の目の前で僕、飛び降りたはずなんだけどな…。


平然と話し掛けてくるんだけど。何で?


僕が昨日と同じ様に手すりを乗り越えても、彼女は僕の邪魔をすることはなく、ただ話し掛けてくるだけ。


「ねぇ。かける君はどうして死んじゃったの?」


彼女のその言葉に、少しだけ僕は動揺してしまったが。


「どうでも良いだろ、そんな事…」


そう言って僕はまた、彼女に見つめられながら歩道橋から飛び降りた。

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