(仮)魔族王子物語。魔王の息子は頑張って生きていく。

相原ハチ

第1話

 八年前。僕は火の中を走っていた。目的地は魔王の玉座。お父様のいる場所。

「お父様! お父様!」

 体中から血を流して仰向けに倒れている魔王。お父様を見つけた。

「おお、息子か……。生きておったのか」

「はい! お父様! 私は無事です。お母様は?」

 魔王に回復魔法をかけながら聞く。

「王妃は……分からん。儂と一緒に戦っておったのだが、儂だけここに飛ばされて……。後は全く……」

 魔王の顔が苦悶にゆがむ。そして僕を見ると。

「お前は早く、ここから逃げろ」

「そんなことできません! 私だって戦えます。ですからお父様、私と一緒に!」

「ならん!」

 と一括し、僕を睨む。

「お前は早くここを去るんだ! これは魔王たる儂の命令だ!」

「ですが……!」

 魔王はゆっくりと立ち、僕から目を離し正面を向く。数人の足音が聞こえる。もう勇者たちがここまで来ているみたいだ。

「まったく、しょうがない息子じゃな。わかった。これは魔王としてじゃなく父親としての願いじゃ。……ここから逃げてくれ」

「そんなこと言われたって! できません!」

 真紅のマントが見えた。もう勇者が目前に迫っている。

「行け!」

 魔王が僕を魔法陣でできたワープゲートに突き飛ばす。

「お父様! お父様ぁぁ!」

 僕は飛ばされる直前、剣を突き立てられる魔王の姿を見た。

「お前は、お前だけは生きてくれ」

 これが僕の見た、お父様の最後の姿だった。

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