第4話 お肉を味わう! 白崎なな
なんとか手に入れることに成功した、イノシシの肉に枝を差し込み火で焼く。脂が多いようで、火にかざした瞬間炎は月に届きそうなほど燃え上がった。自分自身までまる焦げになりそうになり、慌てて離れた。
(あっぶな! 死ぬところだった)
仕留めるのにも焼くのにも、かなりの時間を費やした。 “腹を満たす” たったそれだけのことが、こんなに大変なのかとヘトヘトになった頭で考えた。
当然のことながら、塩胡椒すらもないので肉そのものの味が食後も舌に残る。意外と見た目はあんなだったが、味は悪くはなかった。
食べ終わった骨を片手に弄りながら、空を見上げた。先ほどの一度変わらぬ場所に、大きな丸い月がこちらを覗いている。
(夜…… なんだよね? それなら、今のうちに寝ておくか?)
感覚とするとまだ夕方だが、普段使わない筋肉を使い頭をフル回転させて体力も底をついている。さらには、腹まで満たされていて横になってしまったのだから眠気に襲われる。
普通であれば、こんなよく分からない場所で寝るなんて死ぬも同然だろう。しかし、もう今の俺に、そんなことを気にしている余裕は全くない。
俺はうとうとして、ゆっくりと重たい瞼を下ろした。瞼を閉じてからは、数回呼吸をしただけで深い眠りについた。
ハッと目を覚まして、飛び起きた。かなり眠った気がして起きたそこは、眠った場所とは異なるところに来ていた。周りを見渡すと、どうやら誰かの家の中のようだ。ご丁寧に、ふわふわの布団を掛けてくれていた。
柔らかなフローラルの香りのする布団は、真っ白で清潔感に溢れている。暖炉が置かれていて、燃え残りなのかとてもか弱い火が微かに見える。音もパチパチと木々が弾ける音がするので、ここの家主はそれほどここから離れていないだろう。
ベッドから降りて、連れてこられた部屋の中をぐるりと見渡した。写真どころか生活感のないこの部屋は、家主が女性なのか男性なのかすら見当がつかない。
ベッドが一つと大きな暖炉に、食卓が置かれている。食卓も机と椅子が2つだけという、かなりシンプルな構成だった。
ベッドに再度、腰を下ろして家主が帰ってくるのを待つことにした。そうこうしているうちにバチっと大きな音を立てて、暖炉の火が消えてしまった。
なかなか家主が帰ってこないので、扉を開いて外を確認しようとした。木でできた温かみのある扉を、押して開く。扉を開くとそこには、眠る前から主張をしていた大きな月が輝いていた。
その大きな月を見て、明らかにおかしいと感じた。そろそろ空の主役は、太陽に変わっていてもおかしくないはずだ。それなのに、大きな月は銀の光を放ちこちらをじっと見つめてくる。
完全に意識はその大きな月に向いていて、近づく影に気が付かなかった。突然話しかけられて、肩が跳ね上がった。凛とした声が耳に響く。
「あなた、そこで何してるの?」
視線を声のした方へ向けると、月明かりを反射するような銀の瞳に揺れる黒のショートヘアの女の子が立っていた。
なぜだかその女の子を見た途端に、胸を締め付けられるような感覚に陥る。どこかで何か大切な記憶を落としていているような気がした。
その締め付けを解放させるように、肺に溜まった息を吐き大きく空気を吸い込んだ。
「君こそ、ここで何をしてるの?」
彼女は、大きな瞳を何度も瞬きをさせながら俺のことをじっと見つめてくる。その度に目から銀の光がキラキラとこぼれ落ちそうなほど、美しい瞳の色だ。
彼女の後ろから、優しそうなお母さんぐらいの歳の女性がゆっくりとした足取りでやってきた。長い薄いピンクの髪を後ろでひとつに結って、歩く振動に合わせてゆらりの波打つ。
「おぉ、元気そうだね。私の名は、セレナ」
促されるように、柔らかな笑みを浮かべたまま俺に手を差し向ける。恐る恐るその手を取り、自己紹介をする。
「俺の名前は、よう……」
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