Dandolo ~Doge de cieco~

夢神 蒼茫

プロローグ

 ヴェネツィア共和国。


 イタリア半島東部の付け根、アドリア海の奥、ヴェネト地方にかつて存在した小さな国の名前だ。


 しかし、小さいのは国であって、その気宇は大きい。


 その昔、地中海世界を支配した世界帝国ローマの後継者たらんという気構えを持ち、そのたくましすぎる商魂によって、地中海貿易を支配。


 中世から近世にかけて、その繁栄を謳歌した海洋国家だ。


 定められた王家というものは存在せず、民衆の代表者たる評議員が政治を動かす仕組みが設けられ、それゆえに“共和国”をその名に記す。


 数多の国家が興亡する中、海の上を商品と人を乗せ、縦横無尽に駆け巡り、千年に渡って続いた世界史上最長の共和制国家でもある。


 そのヴェネツィアが地中海の覇権を握るその過程において、決定的な役割を果たした一人の男がいる。


 男の名はエンリコ=ダンドロ。


 才気に溢れ、老いてなおますます盛んであり、むしろこの男が活躍したのは老人と呼ばれる年齢を過ぎてからになる。


 ビザンツ帝国、神聖ローマ帝国、ローマ法王庁、エルサレム王国、アイユーブ朝エジプト、数多の大勢力がひしめき合う東地中海。


 それら全てと渡り合い、そして、ペテン・・・にかけた。


 稀代の大商人か、不世出の戦略家か、はたまた前人未到の詐欺師か。


 この物語は栄光のローマパックス・ロマーノを夢見て地中海を所狭しと駆け巡った、“盲目の統領ドージェ・デ・チェイコ”エンリコ=ダンドロの物語である。

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