主人公のラブコメが終わったあとの話

Haru

最終回

美咲みさき!俺は…俺はお前のことが好きだ!」


一人の男が大きな声でそう言った。


裕也ゆうや君…私なんかじゃ裕也君には釣り合わないよ。それに他の人にも告白されたんでしょ?なら私なんて…」


そう言われた少女は自虐気味に笑いながらそう言った。口元は笑っていても目は笑っていない。


「違う!俺は美咲じゃないとダメなんだ!優しい美咲が好きだ!人のために怒れる美咲が好きだ!すこし抜けてておっちょこちょいな美咲が好きだ!」


男は彼女に対する思いをさらけ出す。自分の思っていることを素直に口に出すのは簡単なことでは無いだろう。だが男はそれが出来る。


「ゆう、や君…」


「俺は美咲だから好きになったんだ。美咲、俺と付き合ってください」


だからこそ


「うん。うん!裕也君大好き!」


「俺もだよ。美咲」


お前は主人公なんだ。


「やったな裕也!」


俺は隠れていた草陰から飛び出して裕也と肩を組む。


「そ、蒼緋そうひ?!お前!隠れて見てたのかよ!」


俺の親友、赤坂あかさか 裕也ゆうやは照れくさそうに頬を染めながらそう言ってくる。


「しゅ、趣味が悪いよ真柴ましば君!」


今しがた裕也の彼女になった少女、橋川はしかわ 美咲みさきが裕也と同様に照れくさそうに抗議してくる。


「いいだろぉ?!こっちはいつ付き合うかと気を長くして待ってたんだぞ!」


そう。裕也と美咲は色々な出来事があったあと、ようやく今付き合った。本当に色々あったなぁ…転校してきたばっかりでクラスに馴染めずに嫌がらせを受けていた橋川を裕也が助けたところからこの物語は始まった。体育祭では二人三脚で紐がちぎれて裕也が橋川をおぶって走ったり、文化祭では劇の主人公とヒロインを裕也と橋川がした。その時、照明が落ちてくるというハプニングが起きて橋川が危なかったところを裕也が飛び込んで助けたり…思い出すだけでもまだまだある。


それにこの物語の登場人物は彼ら二人だけでは無かった。裕也に好意を向ける少女は橋川の他にも数人居た。クラスのマドンナであったり、部活の後輩であったり、先輩の生徒会長であったり…言ってしまえば裕也はこの物語の主人公なのだ。


そして俺は裕也の親友ポジション。裕也が悩んでいればちょっと助言したり、道を外れそうになったら説教したり…そんな役どころ。それでも親友の裕也がようやく付き合えたのを見て俺は自分のことのように嬉しい。


くぅ!裕也のやつ羨ましいなぁ!俺だって美女に囲まれてちやほやされたかったなぁ!


「そ、その節はお世話になりました…」


裕也と橋川が揃って頭を下げてくる。


「そうだろうそうだろう。ということで裕也!またなんか奢れよ?」


「あぁ、ファミレスでも何でも来い」


「なら三ツ星レストランにしようかなー」


「すんませんまじ勘弁してください」


そんなくだらないやり取りをする。それだけでも楽しかった。裕也に好意を抱いていて結ばれなかった少女達はなんというかやるせない気持ちになるだろうが、それでも彼女たちは自分の気持ちに折り合いをつけていた。強い人達なんだよな…俺がその立場なら絶対にそうはならなかっただろうなぁ。


「あら、今赤坂君が高級レストランの料理を振舞ってくれると聞こえたのだけど」


俺たちが三人でわちゃわちゃしていると後ろからそんな声が聞こえた。声のした方向を見るとそこには一人の少女が立っていた。その少女は大きな金縁の丸メガネをかけており、聡明そうな顔立ちをしていた。


「あ!ゆいちゃん!」


「お、聞いてくれよやなぎ!裕也と橋川がようやく付き合ったんだぜ?」


俺は向かってくる少女、やなぎ ゆいに向かってそう言う。


「お、お世話になりました」


柳に向かって裕也が頭を下げる。


「えぇ、知ってるわよ。私も見ていたもの」


柳が微笑みながらそう言った。


「え?お前見てたの?どこで?」


俺がそう問いかけると柳が答える。


「あなたの背後よ」


ニヤリと笑いながら柳がそう言う


「は?」


一体この人は何を言っているのでしょう?


「私は真柴君の後ろにピッタリとくっついていたの。足音もしないように歩みも寸分たがわず合わせてね」


「う、嘘だよね?結ちゃん?」


橋川が若干引きながらそう訊ねる。


「…」


「ゆ、結ちゃん?」


「ふっ、嘘よ」


「なんだよそれ!」


うん。この子こういうところあるんだよね。柳は橋川の親友で裕也における俺みたいな立ち位置だ。つまり橋川のサポート役みたいなところだ。


意外だったのは柳が裕也に惚れなかったこと。こういうのって大抵、親友の相談に乗っていて自分も関わっていくうちにその人のことが好きになっていく、って感じじゃないのか?それがラブコメの常套手段だと思っていたのに…柳は攻略難易度最強ということか…


「それで赤坂君、いつ招待してくれるのかしら?」


「へへへ、勘弁してくださいよ姉御」


「だれが姉御よ。もぐわよ」


「何を!?」


へ、へへへ…怖ぇっす姉御。


「まぁ、とりあえずおめでとうと言っておくわ」


「ありがとう!結ちゃん!」


「ありがとう結」


裕也と橋川が柳に礼を言う。


「ちょっと赤坂君。だれが名前で呼んでいいと言ったのよ」


柳がそう言いながら裕也を冷たく睨みつける。


「す、すんません姉御!」


「あなたいい加減にしなさいよ?ちょん切るわよ」


「何を?!」


「あ、あははは…」


…ここには明確な力関係があるッ!


「そろそろ帰ろっか」


橋川がそう言う。


「あぁ、そうだな」


それに対して裕也が賛成する。


裕也と橋川は二人ならんで嬉しそうな顔をしながら歩き出した。


「あーあー、二人の世界に入ってる」


別に妬ましくなんてないんだからね!裕也が豆腐の角に頭ぶつけて〇ねばいいだなんて思ってないんだからね!


俺も二人の後に続くように歩き出す。


「ん?何やってんだ柳。行こうぜ」


俺は何故かまだ後ろで止まっていた柳に声を掛ける。


「あら、真柴君なら名前で呼んでいいのよ?」


柳はからかうようにそう言ってくる。


「何言ってんだよ。早くしないと置いてくぞー」


「ふふっ、今行くわ」


そう言って柳も俺の後ろに続くように歩き出した。



あとがき

この作品は僕の好きをヒロインに詰め込んだ作品になりそうです。どうぞよろしくお願いします。

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