第17話 ずっと味方
ーこの人は自分が何を言っているのか
わかっているのだろうか。ー
親権や戸籍の問題もある。
しかしそれ以上に、出会って半日の俺を
このまま養おうだなんて
この人は正気なんだろうか。
当然、俺としてはそれが一番ありがたい。
もう
すっかり凛央さんの虜になってしまった俺もまともな判断ができなくなってきた。
正気なんだろうかと凛央さんに思う反面、
このままこの人と暮らしていけたらどれだけ幸せだろうかと考えている。
結局はまだまだ餓鬼なんだろうか
俺も。
凛央さんも。
いや、そうではないな…。
凛央さんは断じて、餓鬼なんかじゃない。
少なくとも腹の底で、そう信じている。
「養うって言ったって、あんた。自分がどんな規模の話をしてんのか分かってんのか?」「うん。分かってるよ。」
存外あっさりした返しだった。
だから俺は…凛央さんを責めてしまった。
「拾った動物の飼育じゃねぇんだぞ。
俺が言うのも変だが、凛央さんが俺を実家から奪ったような扱いになるんじゃないのか? 大丈夫なのかよ?
俺はここに居ても大丈夫なのかよ?
なあ!?」
…安心したかった。
凛央さんが考え無しにそんなことを
言っているんじゃないかと不安だった。
結局は糞で身勝手かつ自己中な理由。
根拠が欲しかった。
凛央さんが俺を養える根拠。
難しい問題や決まりがある中で
俺が居ても大丈夫な理由。
今ここで俺が彼女を責めたり、こんな事を言ったりするのはおこがましいことこの上ないし、心苦しかった。
でも止められなかった。
「………………」
今度は凛央さんが俯く。
さっきは欲情させられたはずの彼女の裸体。
何故か今は寸分も股間に響かなかった。
「…答えろよ。」
押し黙る彼女をそのまま詰めた。
全てを言い終えてから
言ったことを後悔した。
俺がこんな思いを凛央さんにぶつけても
なんの解決にもならないだろう。
所詮今の時間は……。
幻想に過ぎないのだろうか……………。
帰らきゃ…いけないのか………………。
「……だよ………。」
凛央さんが口を開いた。
その声は、かすれたような震えたような、弱々しいものだった。幾度か目にした彼女の満面の笑みとは対極に位置する、底しれぬ闇の顕現にも感じられた。
「………ダメなんだよ………。」
「何が駄目なんだよ。」
「……多分…のりおを家に返しちゃ……
……ッッ…………ッだめえっっ……。」
生まれて初めてかもしれない。
誰かの涙を目にしたのは。
凛央さんは泣いていた。
小指の背爪ぐらいの大粒の涙で
静かに涙を流していた。
涙の大きさが悲しみなどに比例する訳では
ないのかもしれないが凛央さんは
悲しむような、何かを訴えるような顔で
俺を見つめてくる。
「せっかくのりおが家出してきたのに、
ここでまた家に帰すようなことしたら…
取り返しがつかなくなる気がするの…。」
「…どういうことだよ。」
「…アンタを帰すわけには行かない……。
本人が出ていきたくなるような、
帰りたくないと思うような………、
暮らしててこんなに……痣とか傷がつく環境に帰すわけにはいかないよ……。」
俺は黙ってしまった。
やはり傷を見せたのは悪手だった。
おそらく傷や痣の件の何割かは嘘だと
勘付かれている。
そのせいで凛央さんの庇護欲を促してしまった。
おかげで俺は彼女に甘えたくなる。
ここで俺が凛央さんに甘えると、
凛央さんの庇護欲が満たされる。
そして俺の心も満たされる。
そんな堕ちるところまで堕ちる可能性の
否めない展開が、容易に想像できた。
「のりお………。」
「…………。」
「なんで家出してきたか…。
……話してくれる?」
「…………………………。」
「思い出したくないこともあるだろうけど、のりおがヤじゃないなら…
……ずっとここで暮らしたらいいよ。
私は…アンタを守ってあげなきゃいけない
気がするの。
今□□は出会って半日でも……
私はずっとのりおの味方だよ。
もちろん嫌ならいいし今じゃなくてもいい。
だから……いつか話してほしいな……。」
凛央さんはここで、俺を抱きしめてきた。
彼女の柔らかい胸が押し当てられたし、
お互いの乳首が擦れ合ったし
陰茎は彼女の腹に撫でられた。
でも興奮を遥かに上回る安心感が
じんわりと心に染み込んでいった。
これは話すのが筋だと思った。
ここで話さなければ話す機会はもう
無い気がした。
それに、彼女以外に話せる人物が現れる
なんて想像できなかった。
「………信じなくてもいい。
信じられなければ、話を盛っているとでも
思ってくれればいい。」
と前置きしたうえで話を始めた。
ずっとずっと誰にも話すまいとしていたことなはずなのに、信じられないぐらい話す気になっている自分に驚いている。
まずは……そうだな。
「俺な…。………神社で産まれたんだ。」
家のことから話そうか。
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