その弟は負けず嫌いだった。最近、祖母に付き添ってもらい、マンションの階段を駆け下りる練習に励んでいた。幾度も繰り返すうち、階段を飛び降りる方が速いと気づき、ついに五段までなら躊躇なく飛べるようになった。


ある日、弟は兄に階段駆け下りの勝負を持ちかけた。兄は快諾し、祖母に審判役を頼んで一階で待ってもらうことにした。


合図と共に、弟は得意の階段飛びで素早く降りていった。だが、すぐに背後に兄の気配が迫る。焦った弟は最後の段差を、いつもより一段多く飛び降りた。結果、勝利は弟のものとなった。


息を切らしながら振り返ると、そこには誰もいなかった。

「あれ、兄ちゃんは?」


祖母に尋ねると、悲しげな表情を浮かべて答えた。

「兄ちゃんはもうおらんのんよ」


驚いた弟が問い返す。

「でも、さっきまで後ろにおったのに…」


すると祖母は困惑した様子で呟いた。

「それなら、兄ちゃんは首だけで付いてきたんかねえ」​​​​​​​​​​​​​​​​

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