第4話 真相を知る
意識がだんだんとはっきりしてくる。冷涼な風が体に当たり涼しく感じる。しかし頭はなにか温かいものに触れていた。僕がぼんやりと目を開けると、目の前に顔を覗き込む大きな目が映った。
「わあ!」
僕は勢いで手を上げて、目の前の顔をど突きそうになった。しかし手を止めた。その顔があまりに可愛いく、愛らしい瞳だったからだ。僕は起き上がりその姿をまじまじと見た。地味な布のローブに身にまとっているが、そこにいるのは紛れもなくかわいい女性である。外は陽が落ちて夜になり暗かったが。そばで焚火がしてあり、彼女の姿ははっきりと見えた。
「ようやく起きてくれましたね」
彼女は動揺する様子もなく笑顔を向けてきた。僕はパニックになる。
「だ、だれだ。君は……」
彼女はまた可愛らしい笑顔で答える。
「私は魔王様に仕える一仕官です。ポレと言います。どうぞお気軽に呼んでください」
「ポレ……?」
僕は唖然とした。こんな可愛い人間と遜色ない子が魔王の仲間だとは。それに敵意も感じられない。少なくとも彼女の僕に対する姿勢は丁寧だった。
「あなたは王国から送られたお婿様ですね。お待ちしておりました」
「婿?」
僕は耳を疑うように聞き返した。彼女はきょとんとした表情で答えた。
「そうですよ?」
「そんな話、僕は知らないぞ。僕は生贄だって……そう送られてきたんだよ」
「うんうん。まぁそうでしょうね」
ポレは大きくうなずいた。僕には何が何だか分からない。必死に頭を整理して言葉を考える。
「えっと、君は魔王のお仲間で、僕と君はこれから魔王城に向かう。でいいのかい?」
「そうです」
今度はポレが僕の姿をまじまじと見てきた。
「しかし、国で一番の男性を求めたのですが……人間の容姿というものは分からないものですね。それに少しにおいます」
ポレは鼻をつまんで眉をひそめた。
「これは……今、王国の上流階級で流行ってる香水だよ、うん」
まずいと思って、僕はとっさに噓をついた。
「うんこみたいな匂いですね」
ポレは淡々とそう言ってから、後ろを向いた。
「もう行くの?」
「はい」
ポレは体の力を抜くようなしぐさをして、ふわりと宙に浮かんだ。
周囲に風が巻き起こり、草が風圧で押しつぶされる。
「掴まってください!」
「ええ!?」
とっさに言われて、僕は傍に駆け寄った。女の子に抱き着くというためらいが僕の行動を遅らせる。相手は人間の姿と変わりない。でもこの場合、自分の貞操を考えても仕方ないと思う。
僕は後ろから勢いよくポレに抱き着いた。人間らしい温もり、柔らかい感触が全身で感じられた。
「よし、掴まったよ!」
耳元のそばに顔があるにもかかわらず、僕は大きめの声で言った。すると急に風が重たく感じ、僕を乗せた体は宙を飛んでいた。目を開けるのがやっとなほど強い風圧がくる。僕は振り落とされないように力を込めて一層抱きしめる。すると急にポレはスピードを緩めた。激しい風の轟音が止み、僕は少し安堵する。安堵して気づいたが、僕の手は何か柔らかいものを押さえていた。それがポレの恥ずかしい部分だとすぐに気づいた。だが今更位置をずらすこともできない。ポレはスピード落としただけで、何も言わない。
気まずく思っていた僕は照れ隠しのつもりでポレに話しかけた。静かに飛んでくれるおかげで声も張らずに済んだ。
「さっきの話だけど、君たちは王国に嘘を言ったのかい?」
「そうです」
ポレは意外にもあっさり答えた。
「どうして?」
「こちらの弱みを見せたくなかったからです」
「弱み?」
「詳しいことは城に着いてからお話ししますが、実は、我々は存亡の危機に瀕しているのです」
「存亡の危機だって!?」
「はい。魔王ラスタ・バージニア様は残念ながら体の弱い方でして……それに、人手不足なんです。私たちの仲間は十人もいないのです。だからもし王国がそれを知って攻めてくれば我々は破れてしまうでしょう」
「だから生贄と称して、優秀な婿を求めて、それで繁栄しようとしたんだね?」
「そうです。血の巡りがいいですね」
ポレに褒められて僕はまんざらでない気持ちになった。少し興奮しているせいかもしれない。こんなに密着して喋っているからだろう。確かに血の巡りは良い、特に下半身が……。
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