第47話 夕食を一緒に
「すみません、先生が」
「いいんだよ。こいつの性格を知った上でこっちも依頼してる」
オレリアンさんはあんな先生を、心から感謝するような目で見つめていたけど、僕が話しかけるとゆっくりとこちらに向き直った。
「それに考えや信念をそう簡単に曲げないやつの方が信用出来るだろう?」
そう言われ上手く話を呑み込めないでいると、オレリアンさんは優しく説明してくれる。
「他人の言葉で簡単に己を曲げるような人間はいずれ裏切る。そのうち自分の気持ちさえ偽るようになるだろう。だから俺はラフィネみたいな、揺るがない芯みないなものを持ったやつが好きなんだよ」
彼の含蓄のある言葉には、一つ一つ重みがあってつい聞き入ってしまった。
「説教臭くなってしまったな」
「おじさんにはありがちなことです。そんなに落ち込むことはありませんよ」
契約書をくるくると巻きながら意地悪な目つきで挑発するラフィネさんに「お前なんて爺さんもいいところだろ」と僕でも指摘できなかった残酷な事実を突きつけるオレリアンさん。
再び口喧嘩を始めた二人を見ていたら、思っていることがつい口から出てしまった。
「お二人は仲が良いんですね」
納得いっていない、いかにも「心外です」と言わんばかりの憮然な表情をするラフィネさん。だけど否定をしないことに、なんだか微笑ましくなってしまった。
契約の詳細を聞けば、オレリアンさんたちが亡くなったその身柄はセルメントが回収してくれると申し出てくれているそう。
「国王陛下の方針で王子には自由に使える部下がいないはずなんだがな。任せてくれの一点ばりで」
騎士団長のオレリアンさんにさえ、セルメントは部下さんの存在を話していないようだ。きっと部下さんが姿を消して氷山の向こうへ騎士の亡骸を回収しに行くのだろう。
「どのような作品にしてほしいといった希望はありますか」
依頼料のせいか、俄然やる気を出している様子のラフィネさんがメモを用意しながら尋ねた。
「出来るなら、次期団長率いる後輩騎士たちの武器の一部を骨で作り替えてほしいんだが」
「可能ですよ。その武器も王子が?」
「それは後輩が手配してくれる」
次期団長とその直属の部下、その二人には絶対に口外しないことを約束させた上で、予め事情を話していると言う。
「模様とかそこら辺はお前に、いやお前たちに任せるよ」
僕に微笑みかけるオレリアンさん。ちゃんと僕のことも一人の作家として見てくれているようだ。
「頑張ります」
「…頑張る?」
怒りを滲ませたラフィネさんの微笑みが降りかかる。
「一つ一つ丁寧に完璧な完成度で仕上げるには死ぬ気でやらないと、千二百なんて数終わりませんよ」
頑張るなんて生ぬるいことを言うなと叱られてしまった。
武器に装飾するとなると、一時騎士の武器がこの店に置かれるということ。それはつまり、騎士の元に武器がないということを意味する。そのため作品完成までにもらえる期限を尋ねようとして、少し躊躇してしまう。
「期限はその……お亡くなりになった日から?」
「三日だ。それ以上武器が手元にない状態はよくないからな」
予備の武器はあるけれど、やっぱり自分の手に一番馴染んだ物がいいのだと話す彼に、そういうものなのかと感心しながら話を聞く。
「それから次に団長になるやつにはコンパスも作ってやってくれ。これは俺からそいつへの餞別だ」
「いいですよ、作って差し上げます」
話がまとまったところで、オレリアンさんは城へ戻るからと席を立った。その背中には哀愁が漂っていて、思わず呼び止めてしまった。
「あの、夕食ご一緒しませんか」
ぱあっと表情を明るくして振り返る彼。二人同時にラフィネさんの様子を窺う。
「…別にいいですけど、食べたらさっさと帰ってください」
仏頂面で椅子にかけてあったエプロンを取り、キッチンへと向かうラフィネさん。
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