我々『カップル爆散同好会』ですがなにか?

あざとアイス

恋人の距離感。リア充の価値感

第1話 夕暮れのした。俺は爆ぜる

――どうしてこうなった

 自宅マンション正面に位置する公園を前に俺はそんな感傷に浸る。


 三永未来みえみらい、16歳。誕生日は4月21日。滋賀は琵琶湖の湖西に位置する県立西上せいじょう高校1年2組の生徒で、いわゆる【リア充】に分類される男子生徒。

 高校入学時点で彼女持ち、勉強も人並み以上にできる自身があり運動も苦手ではなくむしろ得意と言っていい。

 自分でいうのも何だが勝ち組であったと自分を評価している。

 勝ち組でと、そう評価しているのだ。


「ごめんね未来君。やっぱり違う高校で付き合うのって無理だよね~」


 俺とは違い気まずさの欠片も見せない彼女は中三の夏から付き合っている俺の恋人、咲楽茜さくらあかね

 正確には現時刻を持って元恋人にクラスチェンジを果たしたわけだが。


「でも……中学卒業の時も、別々の高校になっても……て……約束……」


 途切れ途切れでまとまっていない言葉を吐き捨てる。

 生暖かく肌を舐める春風が頭を整理させ今の状況を再認識させる。

 そう、俺は何の変哲もなかった高校からの下校時に自身の恋人と自分と同じ制服を身にまとった男子生徒がキスしている現場に鉢合わせしてしまったのである。それも結構濃密な。

 ちなみに俺はしたことない。


「おいおい、未練がましい男は嫌われるぜ」


「悪いとは思ってるよ……でも清太君への恋心が冷めちゃったの。私以外にもいい女の子いっぱいいるだろうし、ね?」


 未だに現実とは信じたくない俺をよそに目の前の新米カップルたちは自分たちの世界に入っていく。

 夕方の公園。俺以外の人目もはばからず恋人繋ぎで身を寄せ合う。

――ていうか、男側俺と同じ制服着てるってことは高校も同じだろうし高校が別だからとかいう理由なんの信憑性もないじゃん。


「ほんとに付き合っている間は楽しかったよ。私も忘れない。こんな終わり方は不本意だろうけどお互い前を向いて歩いて行こうよ。私たちまだ高1だし」


 どの口が……そう言い始めかけた口が閉じる。

 彼女の鞄にあるのは俺が彼女の誕生日、去年の11月に買ったお揃いのキーホルダー。

 花火大会で告白した8月。1か月記念で県外デートをした9月。ハロウィンに羽目を外し先生に怒られた10月。初めて彼女の家に行き一緒にクリスマスケーキを食べた12月…… 

 他にも俺の中には茜との思い出がたくさんあった。

 今一番使っている財布も先月の俺の誕生日に彼女から貰ったものだ。

 彼女の言う通り楽しい思い出だらけ。決して俺一人では作れなかった煌びやかな青春の一ページだ。

 かなり心を抉る浮気現場の目撃となったがそれでもこれまでのことが嘘とはならない。

 ここは男らしくいさかいなく関係を終えよう。

 

「もういいだろ。茜、ほらこっちよれって」


「ちょ、ダメ。まだンッ」


 気持ちの整理を始めた俺の目の前で元カノたちは濃厚なキスを再開。

 茜も随分とノリノリだ。


「このクソビッチ」

 

 感情を乗せずに放たれた音が空を舞う。

 怒りもなく軽蔑もなく本当に何も思わず出てしまったその言葉に遅れて言ってしまったと後悔する。

 そして後悔も束の間、俺の顔面目掛けて進軍する拳の記憶を最後に俺は天を仰いだ。




「…………本当に何でこうなったんだろう」


 顔を襲う鈍痛どんつうを我慢しながらもう一度感傷に浸る。

 体感10分近く地面に寝そべったままの体勢でいた俺は元カノカップルが去っていくのを横目にそんなことを思うことしかできなかった。

 涙は出ない。悔しいとも違う。強いて言うなら虚無。

 これまでの思い出が全部夢の出来事だったように零れ落ちていくような、そんな感覚だ。


「定石どおりにキーホルダーだけ返しやがって」


 上を向く手の平に乗せられた金属の触感に本当に全部終わったのだと再認識させられた。

 帰ろう。幸い家までの距離はほとんどない。

 そうして体を起こそうとした俺の顔の目の前に見知らぬ影が覗く。


「わぁビックリした! ずっと寝っ転がってたから起きないと思って覗いたのに。いろいろとタイミングの悪い方ですねぇ」


「えっと……誰?」


 ついさっき驚くべき光景を目の当たりにした俺はそんなことでは驚かない。

 時間がたち無理やり冷静になった頭で俺は質問をする。


「同じクラスの妃衣です。妃衣花火ひごろもはなびですよ」


 確かにうちのクラスには妃衣花火という生徒はいるが俺の知っている妃衣花火と目の上の彼女の容姿にはかなりの違いがある。

 まず目に入った特徴的なグラサンは置いておいても髪型も雰囲気も喋り方も何もかもが違う。

 俺が困惑を隠しきれずに黙っていると彼女はお構いなしに続ける。

 

「一部始終は見させていただきました。というよりも最初から最後まで全部見てました」


 何と恥ずかしい。ぜひとも早急に忘れていただきたい。

 困惑と羞恥心といろんな感情が入り乱れる俺の内の核心でも見たかのようにグラサンを勢いよく外して彼女は叫ぶ。


「君! あいつら、爆散させたくない?」

 

 






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