第33話 私、宰相閣下の抱き枕!?
そうして数日が過ぎた、ある日の夕食後のこと。
今日も食後の紅茶を優雅に傾けているエドワルド様が、ポツリと一言。
「やはり、エリザベスが関係している気がするな」
私に目を向けて、唐突に口にした。
「わふ?」
「睡眠に関して、でございますね」
「あぁ」
意味が分からず首をかしげた私とは違い、マッテオさんは完璧にその意図を汲み取ったらしい。
個人的には、毎晩のアレは儀式だ義務だと言い聞かせているので、あまり思い出したくはないのだけれど。
「眠りに入るまでの時間が短くなったのは確かだ」
「朝は相変わらず、お早い時間にお目覚めになっていらっしゃるようですが」
ジトっとした目を向けていた私の、心の声を代弁してくれたかのように。思っていたことそのままを口にしてくれたのは、ディーノさん。
しかも紅茶のおかわりを注ぎながらという、エドワルド様が逃げきれない至近距離で。
この瞬間に「よく言った」と思ったのは、きっと私だけではなかったと思う。
「それは、仕方がないだろう。私が意図して目覚めているわけではないのだからな」
少しだけ眉をひそめながら、バツが悪そうに紅茶のカップを傾けるその姿も、優雅で様になっているのだけれど。
それ以上に珍しいので、思わず小さく笑ってしまった。
ただ犬の姿なので、息が漏れる程度の音しかでなかったのは幸いだったかもしれない。誰にも悟られることがなかったから。
「よくお休みになられていたあの日と今とで、何が違うのでしょうか」
「エドワルド様がおっしゃる通り、エリザベスの存在が鍵になっているような気もいたしますが……」
この場にいる全員の視線が、私に集まる。
(……これ、既視感あるなぁ)
同時に嫌な予感がしているのも、気のせいではないように思えて。
彼らの口から飛び出してくる可能性がある、予想外の言葉に怯えながら。身を縮こまらせて、彼らの視線から逃れるように目を逸らす。
「私が執務室に足を踏み入れた際には、エリザベスがエドワルド様に寄り添っているようにも見えました」
「目が覚めた時にも、すぐ傍らにいたな」
犬の姿だから気がつかれないだけかもしれないけれど、人間の姿だったら、今の私は冷や汗を流しながら顔を引きつらせていることだろう。
嫌な予感が現実になりそうな気がして、必死で顔まで逸らすけれど。耳はしっかりと、彼らの会話を捉えているから。
「つまり……睡眠時にもエリザベスが側にいるかいないかが、一番の大きな違いなのではないでしょうか?」
「なるほど」
「そうかもしれませんね」
この流れをなかったことにも、聞いていないフリもできないわけで。
そして何より、私には拒否権というものが存在していない。
(居候の身で、贅沢は言えないし……!)
それ以上に、言葉を発するための器官が存在していないのだけれど。
ともかく。
「では、さっそく本日より開始いたしましょう」
「そうだな。試してみる価値は大いにある」
「寝具に泥などが付かないよう、直前にブラッシングなどのお時間をいただいてもよろしいですか?」
「あぁ、頼んだ」
「承知いたしました」
サクサクと進んでいく計画に、口を挟む暇もないまま。
「エリザベス。お前は今日から、エドワルド様の抱き枕になってくれ」
そのまま別室に連れて行かれ、全ての足を濡れたタオルでしっかりと拭かれ、念入りにブラッシングまでされている私に。
(というか私、宰相閣下の抱き枕!?)
いい笑顔でそんな風に言い放ったディーノさんを、恨めしく思いながらも睨みつけるけれど。
「エドワルド様に朝までしっかりとお休みしていただけたら、明日の夕食は少し豪華にするように料理長に言っておいてやるからな」
夕食が豪華になるという言葉に、ちょっとだけつられかけてしまったから。
たぶん一生、私のこの貧乏性は治らないような気がする。
ただ、フォルトゥナート公爵邸で出てくるごはんが異常に美味しいことだけは、ここに付け加えておきたい。
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