魂たちの放浪旅 0 番外編 ヘクティック・ピルグリム
Hs0(へそ)
第1話 バァァァカじゃねぇの
俺の名前は末成 千道。理想郷を目指して、突き進む男。ナイトメアをブチのめすために、ユーサネイコーを放浪する。
午前は、茶寓さんから団の話を聞いた。どこもえげつない説明だったが、目標のためには止まってはいけない。
総団長が交渉を終えるまで、ゼントム国内の依頼を引き受ける。片っ端から解決するのが、今の課題である。
『回想終了』
元気に自己紹介したのに、勇者さんはとても冷たい。テレスコメモリーの中にいると言えど、十二年ぶりに景色を見れているのに。「今日の出来事が、そんなに嫌だったのですか?」と聞くと、盛大な溜息をつかれた。
『なんですか、アザラシ転がり大会って。千道も、ノリノリで参加するんじゃねぇです。ボールみてぇに滑り落ちて、海に突っ込んだ時は肝が冷えやがりました。おれが引っ張り上げなかったら、どうしやがってたんです』
「それは……本当にすみませんでした。専用の『翻訳薬』を飲んで、アザラシ語が分かったのが楽しくて」
アザラシの親玉には「新入りか。ヤワな真似をしたら、地獄の底の底々に突き落としてやんよ」と、言われた。やるしかないと思い、依頼内容である「アザラシ大会に参加して欲しい」を引き受けた。報酬はアザラシの糞だったので、握り潰した。
ルージャ山の事件を解決したけれど、シニミは出て来る。とはいえ、ランク『1』か『2』が大半である。俺が行かなくとも、勇敢な住民たちで倒している。ゼントム国に来る依頼は、シニミ討伐以外にもある。
それが、とても変わっている。先述のアザラシはもちろん、ペンギンの整列訓練や、マキミム美術館の受付。モセント駐車場にて、タクシーの色を記録する。街中にある広場にて開催されている、大縄跳びの回し役。ゲテモノ食いや、海に現れる珍獣の撮影。他にも、奇想天外な内容が飛び交う。
ゼントム国の人たちから信頼を得るために、食わず嫌いをしている余裕はない。しかし、初めて手に付けることは上手く出来ない。一つの依頼を解決させるのに時間がかかるのが、悩みの種となっている。
勇者さんのアドバイスがなかったら、依頼人を怒らせていたかもしれない。明日はもっと時間短縮できるように、工夫をしようと作戦を練っている。
なんとか直ったトイレとお風呂を済ませ、電気を消してベッドの上に倒れる。一日中歩いていたので、脚が少し疲れている。とはいえ、山での修行のおかげか、筋肉痛までとはならなさそうだ。
『……千道? どこに行くんです?』
猫のように、暗くても景色が見えているらしい。突然起き上がってベッドから出た俺に、勇者さんは驚いたのだろう。歪な望遠鏡に向かって、口を開く。
「ちょっとそこら辺まで、ぶらぶら歩こうかなって。肌寒いけれど、良い天気ですし。星空の下に行きたいんです」
そう言った俺は、扉に手をかける。後ろから『今は、夜の十一時ですよ?』と言われたので、振り返り笑顔で答える。
「何言ってるんです。放浪するのに打って付けな時間ですよ。すぐ戻るんで!」
『バァァァカじゃねぇの!?』
突然大声を出した勇者さんは、バタついているらしい。望遠鏡が勝手に揺れ動き、ついには机の上から落ちた。
彼が怪我した訳ではないが、心配になった。電気を付けて望遠鏡を拾い、そのまま顔を近づける。
「どうしてそんなに焦っているんです? 俺、変なこと言っちゃいました?」
望遠鏡の中で大暴れしている理由が、イマイチ分からない。なので、手っ取り早く聞くことにした。勇者さんは『あのですねぇ!』と、更に荒げる。思わず肩をビクつかせたのは、見えない威圧があるからだろうか。
『君の放浪癖は否定しねぇです、けど! もしもシニミに鉢遭ったら、どうしやがるんですか!? せめて、おれを連れて行きやがれ!』
「えぇっ、良いんですか? ただ歩くだけなので、とても退屈だと思いますよ?」
『手ぶらの君が襲われるより、断然とマシです! さぁ、さっさと連れて行きやがれ!』
「なんか、言い方が暴君っぽい……では、よろしくお願いします!」
テレスコメモリーを片手に持ち、今度こそ部屋から出た。家の鍵はそもそも無いが、今の時間だと一般人はDVCへの立ち入り禁止なので、気にしなかった。
もしも強盗が入って来ても、目新しいモノは何一つとしてない。とはいえ、早く抜け落ちた鍵穴は修正したい。依頼をこなしてお金を溜めれば、それくらいの費用は稼げるだろう。
真夜中のゼントム国へ行く。それだけで、鼻歌混じりになるくらいには上機嫌になった。ここは街灯が少ないので、小さな光までよく見える。あっという間に本部から出て、直感の方向へ歩いて行く。
『千道……君って案外、怖いもの知らずなんですね』
「えっ? 俺、ホラー映画とかは好きじゃないですよ。驚かしてくるのは、勘弁してほしいです。血が飛ぶのも、まぁ見たくないですし」
『そう意味じゃねぇです』
ただ一つ違うのは、放浪している時に会話をする点である。一度たりともなかったことなので、心が更に弾んでいる。
勇者さんに、十二年前と風景が変わったかを聞いた。田舎だからか、大半がそのままらしい。
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