ハーレム!ハーレム!ハーレム!ハーレム!怒涛のハーレムラッシュ!!!


「王がもどられたわ」

「おかえりなさいませぇ」


 頭上から美声と美女が降ってきた。一人や二人じゃない。何十人といる。やっぱりみんな透き通るように綺麗なさらさらの金髪だ。妖精のように翅を煌めかせて舞い降りてくる様子は絵にも描けない美しさという言葉を思い起こさせるが、美女の皆さん全員うっすいスケスケのオーガンジーを一枚巻いただけのほぼ裸。


 待て待て待て待て肌色の塊のまま押し寄せてくるんじゃねぇええええええええええええええええ!!!!!!!!貞操って概念はないんかあんたらああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!


 ってもハーレムのみなさんがそろって乳尻太腿バインバイン系じゃないのが不幸中の幸いだ。確かこんな薄布一枚持ってるだけの裸のお姉さんの有名な絵画があったな。

 思い出した、クラーナハのヴィーナスだ。


おかげでバレエのプリマドンナや美術絵画、彫刻を鑑賞する気持ちで接することが出来る。そういう視点で見るとやっぱり妖精、なんだろうな。皆さんミツバチの三対のミツバチの翅が生えているし。

もしかしてクラーナハ、この世界に来た事があるんじゃ??????


 ともかく野郎一人に美姫が何十人。どうみたってハーレム。後宮。大奥。


 僕を担いだままのアゲハチョウさんを囲んで裸のお姉さん方がわいわいきゃあきゃあ姦しくさえずり始めた。


「今日はどこにいらしていたんですの?」


「奴隷の数が合わないって報告を受けてね。下界に脚を運んだんだ」


 奴隷ってあの場に居合わせた原色鮮やかなフリフリワンピースの生徒児童のことか?

 そうだ、あそこにいた子供の背中には翅が無かった。だから僕は最初イベント会場に紛れ込んでしまったと思ったんだ。

 類推すると翅が無い=奴隷という事になるのか


「ではこの子はどちらから参られたのでしょう?」

 日本の北関東の田舎町ですの。で僕はさっさと帰りたいんですの。

「まぁ、主従隷属の腕輪を嵌めてますわね」

 さっき僕を担いでるこの人に無承諾で着けられたんですの。

「ではこの子は、トツクニからいらしたのですね」

 そうですの。僕トツクニに帰りたいんですの。


 心の中でつっこみ返答していると、美姫の中の一人が僕の頭に触れてきた。


「不思議な髪色だわ、こんな手触りの髪は初めて」

 勝手に触るのはやめていただきたいんですの。

「ねぇねぇあなた私のところにいらっしゃいな」

 気に入られても困りますのよ。

「あら駄目よ、このこは私がもらうんだから」

 丁重にお断りしますの。帰りますのよ。

「そんなおねだり、はしたないですわよ」

 僕のために喧嘩はやめてほしいんですの。僕は帰るんですのよ。


「こらこら、そんなにはしゃいではトツクニもどうしたらいいのか困ってしまうじゃないか」


 僕を床に下ろしながらアゲハチョウさんが美姫たちを制すると「はぁい」声音は様々何十通り、残念そうな返事が一斉にあがった。


 追加訂正。女子高も加える。


「改めてトツクニの住人よ。私の名前はニンギルス、この王宮の主だよ」


 王様、先に名乗った。右手を胸にあてて少し会釈する姿にちょっぴり高貴な感じを覚えた。


「さて、君の名前を聞いておかないとね」


 呼ぶとき困るからなどとのんきな事を言っている。いやさ僕は帰るっつってんだろ全然人の話聞かねぇ王様だなおい。


「僕は」

 その瞬間、おじいちゃんの書斎にあった。まじないのなんとかとかいうとっても物騒なタイトルの書籍の一文を思い出した。

【妖精の世界などに連れて行かれた時、本当の名前を教えると魂を奪われる。】


 まずい。一度きりの人生こんなところで終わってたまるか。


 色々造語や歴史上の人物やら流行りのスイーツや推しバンド名や知ってるブランド名やいろいろな名称が爆速高速超光速で脳裏を駆け巡ったが、どれも違う。違うというより、あれだ。うっかり実在する名前を使った結果、現実の世界に戻ったら【僕がこの世界で使った名称の概念が変質している】ケースを懸念したのだ。

 本名ではない、現実にも影響しない都合のいい名前。


 僅か0,05秒で答えをはじき出し、答えた。


「奴隷、でいいっす」


 アゲハチョウの翅を持つ水の都エラクアの王ニンギルスは最近のトツクニは変わった名前を付けるんだねぇ、と鷹揚に笑った。


 ちったぁ疑えよ!?本名なわけないねぇだろ!!



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