異世界で王子様に奴隷として主従関係を結ばされました。気に入られてしまって帰りたいのに帰してくれません。どうしたら元の世界に帰してくれますか??
あかくりこ
岩窟をこえていこうよ
僕はうねうね曲がった大きなヒノキの林に囲まれた廃墟を散策していた。
戦前に建てられた小さい家屋敷だ。今は住む人もいなくなって庭には雑草が生い茂っている。もともとは手入れされた庭だったのかそこらにはないカエデとか梅が枝葉を伸ばした築山や苔むした池の跡もあって当時を偲ばせる。
僕のおじいちゃんの家が、今でも模様の入った擦りガラスだったり、窓は木枠でねじみたいに回して閉めるタイプのカギが下がってたり、風呂の床が玉砂利模様の敷石だったり、普通にそういった古い造りだ。「今じゃ色々うるさくてもう新築じゃこさえらえれんからの、せっかくだからわしともども文化資産として残してもらおうと思っとるよ」と冗談を言って笑っているような陽気なおじいちゃんだ。
廃墟の話に戻すと、来年になったら取り壊すことが決まったと親が役所に勤めているクラスメイトが噂していた。
聞けば
「ほら、あそこもともと有力者が愛人と逢引するのに建てたって経緯があるだろ」
要は妾を住まわせて、というやつだ。
「で、有力者が亡くなって親類が売りに出したんだけど、嫌がって誰も買い取ってくれないんだってさ」
そんな理由で取り壊すのか、勿体ないなという気持ちと、そんなら解体が始まる前に中を拝ませてもらおうという、少々悪知恵めいた思い付きで忍び込んだのだ。
後々思えば友達と連れ立ってくればよかったのかもしれない。
けど、老舗旅館とも文化財でもない、おじいちゃんの家と同じくらい、もしかしたらもっと古い世代に建てられた建築、という何ともいえないノスタルジーめいた感傷が足を向けた理由だったから、探検気分で押しかけてわあわあ騒ぎたくないという気持ちもあったのだ。
「......お邪魔しまーす」
ヤツデと南天が両脇に聳える門扉をくぐり、鮮やかな緑色と赤で薔薇をデザインしたステンドグラスの引戸を開けて中の様子を窺う。
ぱっと見、向かって右側が土間や風呂場の水回り、左側が居間のようだ。だけどちょっと変わった造りだ。玄関から真っすぐ土埃に埋まった廊下が伸びている。シダ類がちょこちょこ生えていて、不自然な印象を受けた。
いや、もう大分昔から人が住んでいないんだから当たり前か。
居間は畳敷きで籐編みの椅子や茶タンスや家財道具がそのまま残っていて、まるで時間が止まったみたいな印象だ。家主はもういないけれど撮らせて下さいねー、そう詫びて何枚かスマホで居間の様子を撮らせてもらった。
土間は最後にして、奥に進みますか。
物置らしい木戸を開けた。
真っ暗い。スマホを明かり替わりに奥を照らす。
「?」
細い岩窟が続いていた。
なんだこりゃ。
ははん、有力者たるもの、有事の際の逃走経路も考慮していたってことかな。
出口がどこに続いているのか興味が湧いた。どうせどこに続いているのか確認したら、またここに戻ってくるんだし。
そうして僕は岩窟を進んでいった。
流石に怖い。恐怖心を和らげようと歌を歌うことにした。
「のーなーかーでーみーたーりーいーなーかーのーばーらー」
「るんらんらんらーんらーんらんらーんらーん、らーんらーんらんらーん」
小中学生の時分、ラジオ主催のコンクールにエントリーするべく練習に参加してた時期があって、その時にいろいろ覚えた歌の数々だ。歌詞はうろ覚えだけど。
そんなに長くない岩窟の突き当たりにはスライドさせて引っ掛けるタイプの鍵のかかった木戸があって、鍵を外して思い切り木戸を開けた。
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