推しのVが俺にガチ恋してることを公言してて困る

月野 観空

プロローグ:推しが俺を推してくる

【コメント】

豚トロ豆腐:ありすちゃんって恋とかしてんの?

ウルりん(TM):イキりヤンキーに恋とか…

UMAFY:にわかコメント多いなありすちゃんのガチ恋相手とか古参なら余裕

ナナコオリ:あーはいはいいつものやつね恋愛脳乙


「えー? あーしの好きな相手なー、もう配信で何度も言ってんだけどなー」


 画面の中、雑談の流れで恋バナになったことで、個人Vtuber、『舞斗まいどありす』の表情が明らかに緩む。

 その映像を見ながら、俺は、「あー、最近のライブ2Dって表情のクオリティやっぱクソ高ぇなー」などと思う。次にありすちゃんがなんて言うかは察せられた。察せられたからこその、現実逃避だった。


「っぱアレっしょー、ありすちゃんの好きな相手っつったらもう分かるっしょみんなー。えへへ言う? 言っちゃう? 聞きたいよねぇみんなー」


【コメント】

UMAFY:ノロケ乙wwww

ナナコオリ:相変わらず人気商売の自覚薄いですね……

豚トロ豆腐::えっこのながれなに?

ガルボん:あーあーまたチャンネル登録者減ったなこれ


「あーしねー、もうずっと好きなのいるんだけどー。初期からずっとあーしのリスナーしてくれてる人でー。あ、せっかくだから紹介さして? コメント固定すっから今からほらほらねーねーコメントしなってばー」


【コメント】

UMAFY:前にそれで炎上してたじゃん…

ナナコオリ:凝りなすぎでは?

猛獣八号:にわかアリスナーは脳破壊される前に逃げ出した方がいい

クリスティーナ:NTR(うたげ)の始まりだぁ!


 次々に流れてくるコメントを眺めて憂鬱になっていると、俺のスマホがLINEの着信を告げる。

 スマホを開けば、メッセージの内容は『ねぇねぇ凛くんコメントマダァ?』という内容。送り主は、舞園有菜――『舞斗ありす』の、中の人。


凛太朗:いやこの雰囲気でできるかボケ

有菜:じゃあTwitterで凛くんのアカウントにリプで『この人が私の想い人です(はぁと)』って拡散しちゃうね!

凛太朗:俺が社会的に死ぬからやめてくれ!

有菜:私の配信で、もう何回も社会的に死んじゃってて可哀想

凛太朗:誰のせいだ、誰の!

有菜:愛が私を狂わせるのよ


 こんな迷惑な愛はいらない。


凛太朗:とにかく、俺はこんな流れでコメントしたりしないからな!

有菜:えー、じゃあ…


 そんなメッセージが送られてきた直後、画面の中のありすちゃんが顔を上げる。

 それから、どこかからかうような口調で、


「あーしの好きな人ビビりでさぁ、コメントなんて絶対送るか! ってさっきLINE送られてきたぁ。マジ寂しいんですけどぉー」


 などと、発言した。


【コメント】

ナナコオリ:凛太朗早くしろ

ガルボん:凛くん死んだか?

猛獣八号:凛太朗詰まされてて草

UMAFY:失望しました凛太朗君ありちゃんのファンやめます


「なんで俺がコメントしないせいでファンやめんだよ!」」


 次々に流れてきたコメントに対して思わず突っ込む。特に最後のやつ。こいつら、何を面白がってやがるんだ。

 だって俺は、ありすちゃんの一リスナーで、ただのファンだっつーのにさ。こんな話題で、コメントなんてできるわけが……。


「……えー、なんかコメントしてくれないみたいなんで、このあとあーしの好きな人Twitterで晒すことにしまーす♪」


Rinta:うわああああそれだけはやめろ!


 やるといったらこいつはやる。

 その確信から、思わず俺はそんなコメントを打っていた。


 するとありすちゃんは、にんまりとした表情を浮かべたかと思うと、


「はーい、この人があーしのガチ恋相手です(はぁと) 凛くんマジであーしのだから、誰も手ェ出したりしちゃダメだかんねー」


 などと言って、俺のコメントをすぐに固定表示にした。


【コメント】

豚トロ豆腐:え、マジ……? これネタとかじゃなくて?

ショウくん:なんかありすちゃん、いつもよりテンション高くない?

ナナコオリ:あれ、名前がЯintaからRintaに変わってる?

クリスティーナ:しっ、中二に野暮なツッコミよ!

UMAFY:いいえ凛太朗くんはありちゃんからの情報によると現在十七歳。そろそろ高2病に差し掛かる頃かと

猛獣八号:↑ここまで凛太朗のファン

ガルボん:アリスナーとか凛太朗耐性ないとやってけねえぞ


「みんなもあーしと凛くんの関係応援してねー! オトコノコゴコロの掴み方、絶賛募集中でーす!」


 そんなありすちゃんの言葉と、画面を物凄い勢いで流れていくコメントを眺めながら、俺はこんなことを考えていた。


「なんで推しが、俺なんかにガチ恋してるんだ……?」

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