うらにわ

@rizesss

裏庭



君は薔薇模様の格子に蔦が絡む秘密の裏庭の隅から隅までを探索しなければいけなかった。

なぜならば君の休暇はとても短く、そして裏庭はあまりにも魅力的だったからだ。

君の美しいママは今日も低血圧でベッドから起きあがれない。

豊かなブロンドを糊の利いた枕とシーツに散らして午後になるまでまどろんでいる。

君は退屈しているだろう。君が短い休暇を過ごすこの街にはまだ友達が居ない。

かといって君のママが借りたこのロココ調の別荘の門を、こっそりと抜け出す勇気が君にはない。

裏庭は魅力的だ。きっとこの時期、そこには蛙が居るし、浅い池には睡蓮がゆれている。

ここ数日降り続いた小雨もなんとかあがって、湖沼地帯に群生する小さく白い花が露に濡れている。

地面がぬかるんでいるから、君は余程気をつけて歩かないとおろしたてのゴム靴の底が滑って、

緩んだ地面から浮き上がっている木の根に爪先をひっかけて痛い思いをするだろう。

何、もう痛いって? 大丈夫。泣かなかった君には栄誉と賞賛のブローチをあげよう。

それはナッツと砂糖と小麦粉でできている。

ボクが馬車道通りのパティスリーで買ってきた素晴らしいビスケットだ。もちろんそれは空きっ腹に突っ込むことだってできる。

蛙を掴んだ泥だらけの手を、ママがいいと言うまでブラシでしっかりと擦れたならばだけれども。

君は小さな、しかしとても一日では見て回れないほどに豊かな裏庭を探索しなければいけなかった。

なぜならば起き出したママは今日も、

正午から太陽が沈むまでの一杯を君とウィンドウショッピングして過ごしたいのだから。

君は退屈のあくびを噛み殺しながら色とりどりの帽子や、シルクの蝶ネクタイをいくつもいくつも試着して、

君の美しいママに散々キスされて抱きしめられなければならないから。

だから美しい裏庭は、この素晴らしく晴れた今日の午前中にすっかり探索し終わらなければならなかった。

君は慎重に、しかし急ぎ足で木立の下を抜けて、いばらのアーチをくぐる。

朝露に濡れて輝く飛び石を君だけの特別なルールでおごそかに踏んでゆき、

芝に霧を吹きかけるスプリンクラーが仕事を始めたのを目の当たりにする。

君の目は大きく丸い。水の粒の中に太陽の光がプリズムを作り出す神秘の瞬間に遭遇したからだ。

君が思わず歓声を上げると、シジュウカラは羽根を打ち鳴らして薄青色の花を付ける樹から飛び立つ。

やがて彼は彼の親友と語り始め、君の孤独を慰めるだろう。そしてまた来客だ。

灰色のまだら猫が見えるかい。ほら、ブッシュの下だ。もう少し身をかがめて。覗いてごらん。

美しきレディーを君は敬意を持って迎えなければならない。

彼女はゆったりと尾をふりふり、君のエスコートを待って背筋を伸ばしている。

指を伸ばして、そうだ。危害は加えないことを君は紳士的に意思表示しなくてはいけない。

ジェスチャーして。おいで、おいでと。

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