第7話 急転直下

「パパ~起きてよ~一緒にお庭で遊ぼ~よ~」

「……エミリーが騒がしい……何かあったのか?」


いつもとは違う不穏な"何か"を感じたギュンターは全速力でクラウス主治医のいる客間へと向かい、何度もドアをノックする。テレビを見ていたクラウスは、何事だという顔でこちらを見てきた。

「なんだなんだ、言葉を掛けずに」

「そんな状況じゃない!」


 ギュンターの剣幕に事の異常性を悟ったクラウスは一度引き出しを漁り出したかと思うと中にあった大量の医療器具をカバンに入れ、


「とりあえず陛下の元へ行くぞ!」

 そう言って走り出した。

「もう八時間も音沙汰ないんだ!」

「それは一大事だ!何かの勘違いで罷免されても構わん!言い訳すれば何とかなるかもしれんから入るぞ!」


 勢いよくドアを開け放ち彼らは陛下の傍へと駆け寄る。部屋の中ではいまだにエミリーが父を揺さぶっている。クラウスは陛下の首元に手を置いたと思うと、まるで何かを催したかのように硬直した。ギュンターはエミリーを必死に抑え込んだ。そして落ち着かせた後に


「クラウス! 陛下は!?」


そう聞かれたクラウスは顔を落としながら


「……残念だが、既に脈がない。皇帝陛下は……亡くなられた」


悲しそうにそう呟いた。


「……嘘だろ?この期に及んで冗談はよせよ?」


ギュンターは状況が理解できていない様子で、額には汗が浮き、表情は引きつっていた。


「陛下が死んだなんて…嘘だろ……………? 陛下………どうか冗談はよして目を覚ましてください…………」


ギュンターは混乱しだす。しかし、


「残念だが君の願いは叶えなれない……」


クラウスの悲しみに満ちたその一言でギュンターは床に崩れ落ちた。


「陛下………陛下………何故私より遥かに若いというのに、私を置いて先に逝くのだ…?」


何度も繰り返しながら床に涙を落とし続ける。その横で彼により押すように背中に手を当てるクラウスも静かに涙を流していた。


「おじさん、何で泣いてるの?」




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同じ頃、ポセイディア郊外の森にあるフィッツェ一族ギュンターの邸宅は突如として騒がしくなる。


「ご主人様!アンナお嬢様!カレン様!」


ぜえぜえと肩で息をし、目元に涙を溜める召使クラウゼが部屋に入ってくる。


「おい……部屋に入る時はノックをしろと何回言った……」


ギュンターがクラウゼをそう怒鳴るが、クラウゼは説教を遮り


「そのようなことを言っていられる状況ではないのです!」


と叫んだ。


「じゃあ何なんだ?」


「陛下が……皇帝陛下ラ・ムー28世が先ほど別荘で亡くなっていることが判明しました!」


「……嘘だろ?つい先週まであれ程元気だったんだぞ、何かの勘違いか?」


「いいえ、嘘ではございません」


ガチャンと、薄く硬いものが落ち砕ける音がした。床には純白のコーヒーカップの残骸と、淹れ立てのコーヒーだった茶色い液体が広がっている。


「ねえ、クラウゼ君、タオルを…」


「私にも…」


アンナとカレンは哀しさのあまり子どもの様に大泣きして悲しみ、溢れた喉を振り絞ってそう声を上げる。クラウゼからタオルを受け取ると、涙を拭いたり鼻をかんだりした。


ギュンターはクラウゼに指示を出す。


「クラウゼ、帝国全土に戒厳令を。第壱帝室近衛師団«IGD»は宮殿の封鎖に向かわせろ」


「了解いたしました!」


 彼はそう言って全力疾走でクラウゼの部屋から駆け出し地階の通信室へと向かって行った。


「ギュンター殿より緊急伝令! ギュンター殿より緊急伝令! 帝国全土に戒厳令を発令!第壱帝室近衛師団«IGD»は宮殿周辺の封鎖を命ずる!たとえ貴族でも確認ができるまでは誰一人通すな!」


クラウゼは無線機に向かって何度も叫び続ける。


「繰り返す! 先程、皇帝が死んだ!」と

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