枯れ尾花 1

『幽霊の正体見たり枯れ尾花』というフレーズは、江戸時代の俳人である横井也有が作った俳句である「化け物の正体見たり枯れ尾花」に由来すると考えられている。幽霊などの恐ろしく感じられるものは、実は恐ろしくもなんともないものである事の慣用句としても使われる事がある。



「いやぁ、こんなつまらない話をしてもうて申し訳ない。こんな年になると若いもんに話を聞いてもらえるのが嬉しいのなんのって。」

「いえいえ、とんでもないです。貴重なお話ありがとうございます。」

「今どき、こんな民間伝承なんかの話はどこも気にせぇへんからね。」

「お陰様で僕らは仕事を貰えてます。」

「そりゃそうや。」

豪快に大笑いする初老を少し超えた程の歳に見える男性――岩永史郎は御年80になるというのだから、素晴らしいものだ。

「では、長くいさせていただくのも気が引けるので、そろそろ失礼します。」

「ああ、もうそんな時間か。さっきの話じゃないんやけど、ここ最近田んぼが荒らされとるから気ぃつけや。」

「多分、動物やと思っとうけど、人影見たっちゅうやつもおるけん。見つけよったら知らせてな。」

「見かけたら知らせますね。では、失礼します。」

そう言って岩永邸を後にした。

外はもう日が沈みかけていた。

田んぼの水が日の光に反射して見える光景に、身に覚えのない望郷の念に駆られはじめる。

ひとまず予約した宿のある町へ向かおうと電車に乗って、今日聞いた話をまとめておく。

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