WHITE DRAGON
虹色冒険書
PROLOGUE 業火の鳥籠・姿を持つ悪夢
第0話 業火の鳥籠
黒く染まった空から、冷たい雨が絶え間なく降りつけている――。
砦にいる大勢のドラゴン達は、慌ただしく行き交っていた。
「迎撃準備を急げ、奴はすぐ近くにいるぞ!」
「ありったけの戦力を用意しろ、総動員で迎え撃つのだ!」
ワイバーンに、ドレイクに、人間に近いドラゴニュートやリザードマン――その他にも、複数の種類のドラゴンによって編成された混成部隊だった。
姿形は違えど、彼らの目的は共通している。
これから襲来するであろう、恐るべき敵を迎え撃つことだ。
「皆備えよ、あのドラゴンだ!」
見張り役のドラゴニュートが叫んだ。
瞳に深紅の光をたたえ、闇に禍々しく残光を刻みながら迫りくる相手――ドラゴン達を脅かさんとする存在もまた、ドラゴンであった。
そのドラゴンは巨大な翼で空を裂き、雷光を背に受けつつ飛来する。
姿を見せてから砦の前へと到達するまで、数秒と要しなかった。
「くそっ、もう来たか……!」
自らを迎え撃たんと集結した軍勢を前に、かのドラゴンは天を仰いで咆哮を上げた。憤怒の雄叫びとも、悲痛な叫びとも聞こえるそれは空間を歪ませ、地を揺るがし……まるで破滅の到来を告げる鐘だった。
いや、そこにいる者達にとってはあのドラゴン自体が破滅そのものであり、『姿を持つ悪夢』と称すべき存在でもあったのだ。
その凄まじいまでの威圧感は、砦のドラゴン達に恐怖を与え、士気を奪った。
「撃て! 何としても食い止めるのだ!」
しかし皆すぐに戦意を取り戻し、何千何万と集結したドラゴン達が、飛来したドラゴンに向けて一斉攻撃を開始した。
口から炎や火球を放つドラゴンに、目から光線を放つドラゴン。遠距離の相手を攻撃する術を持たないドラゴニュートやリザードマンは、用意された大砲を放った。接近戦に覚えのあるドラゴンは、その爪や尻尾の棘を振りかざして挑みかかった。
攻撃方法は多種多様だった。しかし、どの攻撃もまったく意味をなさない。
ドラゴンは自在に天を駆り、その身を翻し、嘲笑うかのようにすべての攻撃をかわしたのだ。
接近して直接攻撃を試みたドラゴンも、まるで手も足も出ない。次々と叩き落とされ、虚しく落下していく。
「ありえない、ワイバーンでもないのにあれほどの制空能力、それにあんな化け物じみた強さ……どう考えたって普通じゃないぞ……!」
「諦めるな、奴を止められなければ龍界は滅ぼされるぞ!」
弱音を吐いたドラゴンを、別のドラゴンが鼓舞する。
しかし、いくら攻撃を続けようとも結果は同じだった。
激しい対空攻撃をかわし、接近してくるドラゴンを蹴散らし続けながら、空を舞うドラゴンがその口を開いた。
そこに炎が蓄積されていく。青く美しい、思わず見とれてしまいそうな炎だ。
しかし、それを目の前にしている者達には、恐怖の対象に他ならない。発せられた光が、太陽のそれのごとく辺りの闇を掻き消していく。
これから何が起こるのかを察した砦のドラゴン達は、もう攻撃を続けてなどいられなかった。
「退避だ、全員退避しろ!」
「逃げるんだ、早く!」
大気が震え、光とともに凄まじい熱気が砦にまで届いていた。それは言うなれば、破滅の序曲だ。
ドラゴン達は皆、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ惑う。だが、彼らの行為は悪あがきにすらならなかった。
光が一際強くなり、周囲から音が消失した次の瞬間、空を舞うドラゴンは衝撃波とともに灼熱の炎を吐き出した。
無慈悲にして絶望的なまでの破壊力と、膨大極まる出力を伴って放たれた青い炎の瀑布。降り注いだそれは、一瞬と呼べる時のうちに周囲を覆い尽くした。
草木が、民家が、神殿が、そして逃げ惑うドラゴン達が、押し寄せる炎の濁流に飲み込まれていく。その光景は壮絶の一言に尽き、まさに阿鼻叫喚の地獄だった。
すべてを滅する煉獄の業火――かのドラゴンが放ち、龍界に壊滅的な被害をもたらしたその炎を称するに、それほど適した語が他にあろうか。
これが龍界最悪の惨劇と称される事件、『業火の鳥籠』の記録の一節である。
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