第16話
特殊部隊は突入の準備と同時に隣の建物の窓からスナイパーも狙撃の準備をしていた。
万全の体勢であるが友人がここまで対策されている事に直樹は恐れを抱いた。
「早く出てこいよ丈二……っ!」
そして他にもその場では麗奈の父親が非常に焦っていた、特殊部隊を見たというのもある。
「麗奈が共犯だなんてっ、あるはずがないっ……!」
本人から自分の意志で丈二に着いていると聞いた、それは共犯である事を意味する。
「彼らは麗奈まで攻撃するつもりか……⁈」
特殊部隊を指して妻に問う。
すると妻であり麗奈の母である女性は答えた。
「……私たちのせいね、あの子の事何も考えてあげられなかった」
自分たちが招いた事態であると事を受け入れているような発言をする妻につい焦りをぶつけてしまう。
「じゃあ麗奈はどうなる⁈ 前科持ちか? このままでは全てが無駄に……っ!」
しかしその態度を見た妻は彼に言い返した。
「まだそんなこと言ってるの⁈ その全てがそうさせたのよ、今は私たちが反省しないと……あの子に合わせる顔がない……」
力強く言い返された事に一瞬戸惑ってしまうがすぐに彼も言い返す。
「ではこの状況はどうする、娘が逮捕されるのを見てろって……?」
「罪を犯してしまったなら仕方ないわ……」
「クソッ……」
妻の言う事は確かに正論だがそれ故に納得できない部分があった。
自分が娘の運命をこうさせてしまったのか。
☆
まだ中に立て籠っている丈二のスマホにまた直樹から電話があった。
焦りながらも応答する丈二、そして直樹も焦っているのが電話越しでも伝わった。
『特殊部隊が来た、もう最後だぞ! いい加減出てこい!』
「無理なんだよ、このままじゃ最悪な結果にしかならねぇ!」
丈二も麗奈への想いや特殊部隊の登場など様々な事が重なり大きな焦りを抱いていた。
『もう十分最悪だろっ、これ以上最悪にする前に自首しろって! そうすりゃ多少は罪も軽くなるから……っ』
「本当にどうしようもねぇんだよ……っ!」
あまりの重圧に瞳に涙が浮かんで来る。
少し涙声になっているのを直樹は察したようで。
『お前も辛いんだろ……? 無理する必要はねぇんだって』
直樹は丈二が苦しいのにどうしようもないためこんな事をしていると感じた。
せっかく母親と向き合ったのに拒絶され、勇気を出したと言うのに結果が実らなかった。
その結果壊れてしまった事は直樹の車を盗んで逃亡した時と同じ状況だと思ったのだ。
『せっかく頑張っても上手く行かなかった、現実に希望が見出せないのは分かる。だから逃げた方が希望があると思うんだろ……?』
「あぁ、その通りだよ……」
『でもそれはまだお前が現実にある希望を知らないだけなんだ、絶対希望はあるんだよ……!』
必死に丈二が出て来るように説得する直樹。
しかし当の丈二へ想いは届いても彼の気持ちは変えられなかった。
「俺は現実から逃げてた、そんで今更大切さに気付いて向き直ってもよ……」
『あぁ……』
「そもそも現実は俺に興味なかったんだよ! いくら向き合っても何も返って来ない、全部無駄だったんだ!」
丈二はその言葉を身を持って経験した。
母親から拒絶された事で強く実感してしまったのだ。
「それなのにいつまでもそこに執着するなんて馬鹿みたいじゃねぇか……っ!」
その声を聞いた直樹はある事を実感する、それは丈二が本当に現実に向き合い成長しようとしたという事。
以前までは母親に執着しそれを指摘すると激昂したのに対し今は執着の愚かさを説いている。
『本当に向き合ったんだなお前……』
「そうだよ」
そこで直樹はある質問をする。
丈二にとって大切だと思う事を。
『なぁ、何で向き合おうと思えたんだ……?』
「え……」
『逃げた時はあんなに拒絶してたのにどういう風の吹き回しだよ?』
そう言われて思い返してみる丈二。
確かにこの現実逃避の旅で丈二の気持ちには変化が起こった。
その要因は一体何なのか。
「あ」
ふと視界に映ったある存在に気付く。
それは丈二を不安そうな目で見つめる麗奈だった。
「お兄さん……?」
「お前……」
少しの間黙った丈二を察して直樹がまた問う。
『何か分かったのか……?』
「あぁ、でもだから何だってんだ?」
『何で向き合えたのか分かったならまた出来るんじゃないかって思ってさ』
直樹の言葉を聞いて麗奈の顔をジッと見つめてみる。
彼女に答えがあるのかも知れない。
『今は現実なんて嫌かも知れないけどさ、もっかい考えてみろよ』
そして麗奈と何か話してみようと考える。
直樹にそれを伝えた。
「直樹、ちょっと話してみるよ」
『あぁ、頑張れよ』
ここでまたあの頑張れという言葉。
しかし今は純粋に後押ししてくれているように感じられた。
そして通話を切り麗奈に話しかける。
「麗奈」
ここで初めて彼女の名を呼んだ。
その事に気付き彼女も驚いている。
「どうしたのお兄さん……?」
突然かしこまった丈二に戸惑う。
「なぁ、ここ座れよ。少し話そうぜ」
そう言って床に胡坐をかいて座る丈二。
麗奈も不思議に思いながらその場に座った。
つづく
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