第9話
一方で直樹は今も警察と共に丈二の目撃情報を追っていた。
そんな中で一つの情報を見て若手の刑事が呟く。
「うわ、ラブホ行ってんすか? 流石に引きますわ……」
丈二を悪く言うような発言にベテランの刑事が若手の頭を軽く叩く。
「おい、そんなこと言うな」
そして視線を直樹の方へ。
友人が聞いている事をベテラン刑事は考慮していたのだ。
「さーせん……」
直樹に軽く頭を下げる若手刑事。
しかし直樹は彼を咎めなかった。
「良いんですよ、アイツもやらかしてる身なんですし」
そう言いながら目撃情報などの資料を手にする直樹。
警察の捜査に協力していたがそれは友人が心配だったからである。
「でもやっぱ俺も追い詰めてたのか……」
自分にも原因があると考え頭を抱えてしまう。
「いや直樹さんは悪くないっすよ、友人のこと考えてたんでしょう?」
若手刑事が慰めてくれるが直樹は嘆いたままだった。
「じゃあどうすりゃ良かったんだろう、お母さんの件もどうしようも無かったし……」
何も他の解決策が見当たらない、やはりあの時の結果は必然だったのか。
丈二が言う母親の精神の件も確かに危ういのだから。
「その母親の件で彼は追い詰められたと聞きましたが具体的な印象など聞かせてもらえませんか?」
ベテラン刑事が直樹の向かいに座り話を聞こうとする。
直樹は渋々答えた。
「はい。アイツとは幼稚園で会って、その時からお母さんは怖かった印象があります」
幼稚園の時から丈二とは付き合いがあった、そして母親の様子も覚えている。
「園にいる間はずっと丈二と遊んでました、明るいヤツだったけど最後はいつも焦った母親に"受験勉強しなきゃ"って無理やり帰らされて泣いてましたね」
「なるほど」
「一回見たんですよ、幼稚園を出た後に車の前で思い切り母親にぶたれる所。声は聞こえなかったけど凄い形相だったのを覚えてます」
そして話は高校になってからの事へ。
「高校生になってから再会したんですけど随分と暗くなってましてね、相変わらず放課後は塾とかで忙しいみたいだったし」
そして母親の事も話す。
「遊び誘ったりしても"母さんがダメって言うから"って断って、全部お母さんが基準になってました」
そこから直樹は推測で丈二の心情を話してみる。
「アイツは母親とか他人に怒られないか、ガッカリされないかで全部判断してるんすよ。自分はどんどん傷付いてんのに……!」
だからこそ直樹が力強く丈二に怒ってしまった事も影響したのだろう。
「そんで頑張りすぎて遂に壊れちゃったんだと思います、俺も追い詰めた要因の一つです……」
後悔を強く言葉にする直樹に刑事たちは少し同情してしまった。
「なるほどね……」
頷くベテラン刑事は何か思うように天井を見上げていた。
☆
遊園地の受付で丈二は麗奈のためにカッコつけてお金も払ってやろうとした。
全てクレジットカード一括で支払って入場したのである。
「クレカ一括で、あと並ばなくていいパスとかあります?」
そこまで安くはない入場料と並ばずに乗れるパスを二人分払った事で麗奈は丈二を少し心配する。
「でも本当にいいの? 払ってもらっちゃって」
「良いよ良いよ、お前が自由を味わえるためにやるんだ」
ここまでやるのは麗奈のため、自分の成長のためにもう一度頑張るのだ。
そんなやり取りをしながら入場ゲートを潜る。
その先に広がっていたのはまさしく遊園地だった。
「わーすごい!!」
走るジェットコースター、回るメリーゴーランド。
麗奈にとっては写真や映像でしか見た事がないものが目の前にある。
丈二が隣にいる事も忘れて麗奈は走り出した。
「あ、お兄さんも早く!」
すぐさま振り返り手招きをして来る。
丈二はそんな麗奈の喜ぶ姿を見て母親を連想してしまう、自分も始めは母親を喜ばせていたのかも知れない。
しかし少しずつ失望されて行ったのが分かった、今回はそうならないようにしなければ。
「あいよ」
そう返事して丈二は一度入場チケットを財布に仕舞おうとする、そこで財布の中にあるものを見つけた。
「あ……」
それは母親の暮らすグループホームの家賃の振り込み用紙、その今月分だった。
ずっと支払いをしようと財布に入れていたのだ。
「はぁ……」
思わず溜息が漏れてしまう。
しかし今は麗奈を楽しませるために頑張るのだ、なので一旦それを仕舞い麗奈の所へ向かったのだ。
「お待たせ」
そして二人は遊園地で遊ぶのを楽しむのだ。
しかし丈二はまだ少し母親の事が気がかりだった。
つづく
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