第2話

 駅に向かい電車に乗った丈二。

 満員電車では蒸れた臭いと丈二の香水の匂いが混ざり合い悪臭が生まれていた。

 しかし丈二は気にする余裕もなくただ到着を待つ。


 そして職場に着いた丈二は先程のメッセージが嘘のように誰とも会話せず机に向かった。

 丈二の机にはマニュアルが開かれたまま置かれていた。

 そして髪型が崩れないように気を付けながらインカムを身に付けて仕事を始める。


「左様で御様います、こちらの回線に変えて頂ければお値段が今より安くなるんですね……っ」


 マニュアルを見ながらセールスの電話を掛ける。

 相手は老人であり耳が遠いらしく声を何とか大きくして話していた。


『……いらないです』


 しかし断られてしまった、これでは営業成績が伸びず給料も上がらない。

 すかさず丈二はマニュアルのページを焦りながら捲り他のプランも提示してみる。


「でしたらこちらの……」


『いらないっつってんだろダァホっ!!』


 思い切り怒鳴られ電話は切れてしまった。

 なかなか契約が取れずに落ち込む丈二に見回りに来た上司が声を掛ける。


「またダメだったか」


「はい……」


「もう半年も経つのにマニュアルに頼ってるからだぞ? 緊張も抜けてないから相手も安心できないんだ」


 最もな事を言う上司だがそんな事はとっくに理解していた、それでも上手く出来ないため丈二は悩んでいるのだ。


「ホラ、午後からはもっと頑張れ」


 また"もっと頑張れ"という言葉。

 丈二の表情は更に曇ってしまった。





 そして時計の針は進んでいく。

 丈二よりも若い高校生のアルバイトがやって来る時間帯になり職場には人が増えた。


「今日も頼りにしてるぞ!」


 先程の上司は高校生に向かってそのような事を言う。

 そして仕事が始まるとその高校生は見事に営業成績を伸ばして行った。

 そして終業時間、結局丈二は後から来た高校生に負けてしまったのだ。


「岬〜、結局お前がビリかよ」


 例の上司が嫌味のように成績表を見せながら言って来るが丈二はそれを見たくなかった。

 目を背けるように床をジッと見つめる。


「すいません……」


「謝罪は何度も聞いたよ、どうするかって聞いてんの」


 丈二の顔や服装などを指差して思っている事を上司は正直に告げた。


「見た目も雰囲気も良いから出来る奴かもと思って採用したけどよ、中身をもっと磨く努力をしろよ」


 "もっと努力"という言葉、また聞く事になるとは。


「もっと時間短くして良いんだぞ? 長時間勤務の割に成長見られないし正直こっちも困るんだ、給料だけ持ってくから……」


「はい……」


 言いたい事は山ほどある、なぜ長時間勤務をするのかという上司の疑問にもちゃんと答えがあるからだ。


「金稼ぎたいならそれに見合った事しなきゃいけないんだ、居ても居なくても変わんないようじゃダメなんだよ」


 そう言って丈二の肩を叩く上司。

 突然触れられた事に驚き丈二はビクッと肩を震わせてしまった。


「ホラ、もっと頑張って見た目と雰囲気に見合う男になれ」


 丈二を想っている心と自分の鬱憤が混じったような言い方をされた丈二は快い気持ちではなかった。





 仕事は終わったがストレスが凄まじかったため丈二は誰も居ない階段の踊り場で発散をしていた。


「だぁぁぁっ、クソッ!!」


 思い切り地団駄しては壁を叩く。

 するとたまたま階段を登って来た他の階に勤務するOLに見られてしまい恥ずかしい思いをしてしまう。


「んんんんんっ!」


 彼女が去ったのを確認してからは他人にバレないように腕を噛みながら叫んだ。

 それほどまでにストレスが溜まっていたのである。

 その後、丈二は誰にも会いたくなかったため喫煙所は避けてビルの裏に入り一人で煙草を吸っていた。


「すぅぅぅ、はぁぁぁ……」


 ビルの裏は丈二専用の喫煙所のようになっている。

 時間をかけて丈二は何本も煙草を消費し携帯吸い殻入れがパンパンになるほど捨てた。


『丈二さんのアイディアのお陰で企画通りそうです!』


『そうか良かった、頑張った甲斐があったな!』


 スマホでメッセージアプリを開いて見つめる。

 そして更なる文章を打った。


『貴方は頑張ってますよ、どうか気を落とさないで』


 そのようなメッセージを打つと後輩らしき人物側から表示された。

 そしてそのアプリを閉じるとそのアイコンと名前は"フェイクSNS"だった。


「はぁ……」


 溜息を吐くしかない丈二は重い腰を上げて何とか立ち上がり帰路につくのだった。






 つづく

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