第20話
っ!?
な、なんだ。
黒髭にぎょろっとした鋭い眼、
ぼさぼさの髪のTシャツ姿。
100%職務質問の対象になりそうな顔した男が、
河野時之助の家の外に屯ってる。
こないだの菜摘を陥れた奴らの関係者か。
でも、あの時見なかった顔だし、
あいつらは身なりはずっと
「おう、
ちょっといいか。」
え?
声、かけられた。
「ここ、
河野時之助ん家でいいんだよな?」
……
涜神センサーは、反応、しない。
ただ、油断はできない。
涜神センサーに反応した奴は確実にやばいが、
反応しなかったからといって
大丈夫かの保証がされているわけではない。
冷静に。
慎重に。
「大変失礼ですが、
どういった、お知り合いでしょうか。」
「おいおい。
俺はむしろ、お前のことを
知らされてないんだけどな。」
あぁ。
そりゃそうだが。
……。
身元を明かすか、惚けるか。
どうする。
どっちが、正解なんだ?
ええい、こうだろう。
「マスターの店の従業員です。」
「お前がか?
やけに若いようだが。」
「はい。
品出し担当ですので。」
「ふぅん……。」
「それで、貴方は?」
「そうだな……。
六条晴海の娘の顔を拝みにきたのさ。」
っ!?
こいつ、アンテナに感知しなかったのに、
や
……え。
「お前ら、ひとん家の前で、
なに睨み合ってんだ?」
は、はぁ?
「あの、マスター。
お店のほうは。」
「んなもんクローズに決まってんだろ。
お前があんなドスドス音立てて駆け出せば
なにごとかと思うじゃねぇか。」
……は、はは。
PC、落とすのが精いっぱいだったわぁ……。
*
うーん。
ほんと、ただの民家だ。
築年数で言えば、この時点で40年くらいだから、
原作世界では築50年以上だったことになる。
そんな家の中にあのギーク部屋が構築されるとは、
誰も思わんわなぁ。
「おら、菜摘。」
「う、うん……。」
内弁慶の癖に、本質的に人見知りな菜摘は、
おっかなびっくりとオトコの顔を見てる。
そりゃまぁ、怖いわ。
髭面だし、髪もぼさぼさだし、眼光も鋭い。
不審者だと思うのも無理はないわな。
「……
なるほど、な。
晴海の面影がある。」
「!」
「おっきくなったら、
美人さんになるだろうよ。
ははは。」
「……。」
不満そうだ。
顔じゃなくて、
頭の中身を言ってほしかったんだろうな、きっと。
「さて、御影。
お前の願いは叶えてやったぞ。」
出石御影。
それが、この黒髭不審者の名前らしい。
「それで?」
「そう急ぐなって。」
そもそも、なんでオフライン上で会うんだろ。
動いた形跡が残るだろうに。
「バカ。
ネット上のほうがよっぽど痕跡が残るんだよ。
こいつらが使ってるのは職場のPCだしな。
ぜんぶ管理されてやがる。」
あぁ、なるほど。
そりゃそうか。よくわかってねぇなぁ。
「菜摘。
二階に戻っていいぞ。
しっかり寝ろよ。」
「う、うん。
お、おやすみ……っ。」
さすがに菜摘には聞かせられないか。
どうせがっつり聞き耳は立ててるんだろうが。
「ふぅ……。
最初に言っとくが、
まだぜんぶ解析できたわけじゃない。」
あ、そうなんだ。
てっきり全容解明できたのかと思ったけど。
「バカ。
こういうのは、解析しやすいほうから手をつけるんだよ。
プロテクトには強弱があるんだからな。」
ふむ。
「復元できたデータのうち、
暗号化の程度が弱いものの中で、
この女が記録していた手記のようなものがあった。」
あぁ。
テクストデータ的なものね。
あ、緑茶飲んでる。
原作通りなら、時之助ん家にあるの、結構いいやつのはず。
だから菜摘が贅沢になったんだけど。
「もったいぶらずにさっさと話せ。」
「そう言うな。
ちょっと、心構えがいるんだよ。」
?
「……
お前さんの話をあらかじめ聞いてなきゃ、
とても信じられねぇ話なんだけどな。」
……。
「結論を先に言う。
死んだ川瀬成海は、抜け殻だ。」
……は?
なに、それ。
「ずっと前に、
ある女に精神を乗っ取られてたんだよ。」
はぁ??
なにその、やっすいSFみたいな話は。
「な、そういう顔になるだろ?
俺も最初はそうだったさ。」
……。
「お前らも知っての通り、
川瀬成海は、孤児だ。
だから、足取りを追うのは非常に難しかったようだが、
断片的な情報からでも、見えるモンはある。」
……。
「中学時代の川瀬成海は、
人見知りの、大人しい子で、
成績も人並みだったそうだよ。
それが、高校二年生の頃くらいから、
急に成績が向上し、奨学金を得て大学に行き、
大学でも優秀な成績を収めて大学院まで進んだ。」
……おかしいといえばおかしいが、
なにかのきっかけで目覚めることは、
まったくないわけじゃない。
「だな。
これだけなら、まぁ、ありえなくはない。
ただ、な。」
?
「中学時代の川瀬成海の成績は、
文系のほうが高いんだよ。」
……
え゛
「まぁ、そうだ。
ぜんぶできるようになる奴を除けば、
文系優位だった奴が、極端なまでの理系優位になるってのは、
ちょっと、珍しいわな。」
……。
「それと。
大学に入ってからの川瀬成海は、
中学以前の記憶が、全くなかったようだ。」
……。
「状況証拠のきわめつけは写真だな。
これだけは物理で持ってきたが。」
あ。
え。
「な。
別人みたいなもんなんだよ。」
……
かろうじて似ているのは、骨格くらいだろう。
目元、唇、鼻。
なにもかも、まったく違う。
整形手術でもしたのだろうか。
「化粧だけでここまでできるっちゃできる。
問題は、どうしてそういう化粧を
選択したのか、なんだよ。」
……
趣味が、違うから。
根本的に、別人だから。
しかし。
「あぁ。
決定打とはとても呼べない。
状況証拠を積み上げましたってだけのことだな。
ただな。
あの女が出た児童養護施設、
なんか、ありそうなんだよ。」
?
孤児院のこと、か。
え゛
ま、まさか
「隆基園、と言ったかな。」
!?!?
りゅ、
りゅうきえん、だとっ!!
「あ、あのっ。」
「!
な、なんだ?」
「い、いま、
隆基園に入れられている子どもの、
特に、4歳児から6歳児のリスト、入手できますかっ。」
「そ、そりゃ不可能じゃねぇけどよ。」
「……どうしたんだ、俊也。」
ど、どうしよう。
これほっとくととんでもないことになるんだけど、
いまはまだ、大したことじゃないんだよ。
ええい、もう、
こう言うしかない。
「……抗おうとするなら、
絶対に、必要なんです。」
「お前……。」
たぶん、苗字が違う。
名前も同じとは限らない。
それ、でも。
「……だとよ。
悪いが、なんとかしてやってくんねぇか。」
「……時之助。
お前さん、どういうつもりだ。」
「……コイツのことは、
俺はよくわかんねぇんだよ。
でも、コイツは、
菜摘の命を救ってくれた。」
「!」
いや、命まではとられてないんだけどね?
そっちのほうが説明はしやすいのか。
「俺ぁコイツには返せねぇ恩ができちまってる。
それはお前もそうだろうよ?」
「……。」
あぁ。
六条晴海のこと好きだったのか、この不審者。
ならさっきの菜摘への態度はよろしくなかったけどな。
「……
わかった。
確約はできないが。」
「……十分です。
ありがとうございます。」
うまくいく保証は、ひとつもない。
だけど。
ファン投票第2位。
実質裏ヒロインとまで言われたキャラ。
日吉綸太郎。
手を、伸ばせる機会を、
逃すわけには、いかない。
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