第24話 猛毒の鱗粉
「おわっ!?」
突然飛んできたおびただしい数の蛾に、僕は驚いてたたらを踏んでしまう。
「ポイズンモスだ!」
「猛毒の鱗粉に気をつけてください!!」
猛毒の鱗粉!?
アイクさんの注意に僕が目を白黒させていると、シェリーさんが前に出た。
「ここはわたしに任せてっ! クリーン・ゾーン!」
改めてシェリーさんが清浄魔法をかけると、ポイズンモスの撒き散らす煙幕のような鱗粉が瞬時に消え失せる。
「よし、これで中毒の心配はない! 皆行くぞ!」
『おー!!』
それからレオンさんの号令で、みんながポイズンモスを討伐しにかかった。
もちろん僕も長い鼻を振り回してポイズンモスを叩き落としていったよ。
だけどものすごい数を相手してるうちに、だんだんと頭が痛くなってくる。
「うう……っ!」
どうやらそれはみんなも同じみたいで、全員が全員顔をしかめていた。
「この数だ、清浄魔法でも浄化しきれないか……!」
「ごめんなさい、わたしが力不足なばっかりに……」
レオンさんの言葉で顔を伏せるシェリーさん。
「聖女様の落ち度ではございません。毒にやられる前にケリをつけますよ!」
そんなシェリーさんをフォローしつつ、アイクさんがみんなに激を飛ばす。
そうやって僕たちはポイズンモスを一匹残らず殲滅することができた。
「よーし、これで全部だな」
「それにしてもすごい数でしたね……」
膝をつくレオンさんとアイクさんの言うとおり、倒したポイズンモスは五百匹を軽く超えている。
「はい、毒消し。タイゾーさんもキツかったでしょ?」
「ありがとうリリア」
リリアがくれた紫色の小瓶の中身を口に流し込むと、不快感がスーッと消えていくのを感じた。
地面を埋め尽くすポイズンモスの死骸を調べるシェリーさんは、あごをなでて考え込んでいるように見える。
「さすがに多すぎるかな……」
「どうしたんですか、シェリーさん?」
僕が訊ねてみると、シェリーさんは立ち上がってこう答えた。
「元々ポイズンモスは集まっても十匹程度なの。それがこんな数集まってるのは変だと思って~。それに……ううん、なんでもない」
シェリーさんが何かいいかけたように見えたけど、僕は特に詮索しなかった。
続いてリリアたちに目を向けると、当の本人は気味悪そうに手を振っている。
「うえ~っ、虫触っちゃった……!」
「それじゃあ清浄魔法をかけてあげるねリリアちゃん。クリーン・ウォッシュ」
「ありがとっ、シェリーさん」
シェリーさんが清浄魔法をかけると、リリアはニカッと笑って感謝した。
「これだけ採取すれば十分だろう。一旦森の外に出るぞ」
レオンさんの指示で、僕たちは森の外に出ることに。
蠱毒の森から出るなり、リリアは地面に手をついてえずく。
「うえ~っ、気持ち悪かった~!」
「よく頑張ったなリリア」
「お兄ちゃ~ん!」
兄のアンリになだめられて、リリアは彼に泣きつくように抱きついた。
あはは、やっぱりこの兄妹は仲良しだぞう。
早速森で採取した植物とポイズンモスを調べたシェリーさんにアイクさんが問いかける。
「聖女様、いかがでしょうか?」
「アイクさん、うーん……やっぱり毒の瘴気がとてつもなく強いの。これはもしかしたら……」
「最悪の事態も考えなければいけない、ということでしょうか?」
アイクさんの質問にシェリーさんは重々しくうなづく。
うーむ、どうやら事は思ったよりも深刻みたいだ。
「どうする、一旦町に戻って出直すか?」
「そうですね、町で本格的な研究に回した方がいいでしょう」
そうして僕たちは一旦ビオレの町に戻ることに。
平原を行く途中でも相変わらずグラスウルフの群れが襲ってきたから返り討ちにしたんだけど、シェリーさんが言うには何かおかしいようで。
「グラスウルフからも瘴気の影響を感じるね」
「確かに、グラスウルフは気性が荒いとはいえこんな見境いなく襲ってくるような生き物じゃない」
「よく知ってるねアンリくん!」
「ま、まあな」
シェリーさんに誉められてアンリも鼻の下をさすってちょっと照れ臭そうにしてる。
「それならこのグラスウルフの毛皮も研究の素材に回した方が良さそうですね」
「それもそうだね。さすがアンリくんっ」
「そ、それほどでもないですよっ」
いつになく初々しい反応のアンリを、リリアと一緒に温かい目で見守った。
「お兄ちゃんってああ見えてウブなところあるの」
「そうだね~」
「おいそこ! そんな目で見ないでくれ!!」
ムキになるアンリにどっとみんなが笑ったところで、僕たちは改めて町への帰路に着く。
町に入るなり、僕の鼻に飛びついてきたのは。
「タイゾウ~!」
なんとパピヨンお嬢様だった。
「タイゾウよ、お主蠱毒の森に行くと言うてたな! 怪我はないかや!?」
「ええ、聖女のシェリーさんのおかげで僕は大丈夫ですよ」
「それはよかったのじゃ~」
パピヨンお嬢様がほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、彼女は僕の鼻にしがみついてからシェリーさんをにらみつける。
「お主が聖女かや?」
「パピヨンお嬢様ですね。お初にお目にかかりますね~」
ニコニコ微笑むシェリーさんの豊満な胸を凝視して、パピヨンお嬢様がこんなことを。
「わらわとてこれから成長期なのじゃ、お主には負けぬからな!?」
「ん?」
あー、もしかしてシェリーさんのナイスバディに張り合おうとしてるね?
そんなパピヨンお嬢様の耳元に僕はささやいた。
「成長も楽しみですけど、僕は今のパピヨンお嬢様も素敵だと思いますよ」
「ほほう、そうか! タイゾウよ、お主は何時でも嬉しいことを言うてくれるのう。わらわもそんなお主が大好きじゃ!」
僕の鼻に顔を擦り付けるパピヨンお嬢様だけど、シェリーさんへの牽制的な表情も忘れていなかった。
「お主にタイゾウは渡さぬぞ、シェリーよ」
「は、はあ」
「――お嬢様、また屋敷を抜け出したのですね。探しましたよ」
そこへやってきたのは、パピヨンお嬢様の専属メイドであるノエムさんである。
「うげっ、ノエムっ」
「戻りますよお嬢様。まだ勉強は終わっておりません」
「む~っ、分かっておるのじゃ。それではタイゾウ、またの!」
ノエムさんに連れ戻される形で、パピヨンお嬢様はこの場を去っていった。
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アフリカゾウが行く 月光壁虎 @geckogecko
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